mixiユーザー(id:2615005)

2017年01月31日22:26

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『ホビットの冒険』

母親の具合がいいので、夕方にシンガポールの自宅に戻った。二日後に相棒と合流し、三日後には札幌ミク祭りに出発する。移動の激しい日常ながら、こんなタイトなスケジュールは初めてだ。うう、しんどい。
帰国直前に読んだ岩波少年文庫である。
・ホビットの冒険(上・下)1951年  作:ジョン・ロナルド・ロウエル・トールキン
映画化は遅かったけど、出版も時系列もこちらが先なので、『指輪物語』の前に読んだ。
これで映画しか見てない人に「原作のほうが!原作のほうが!」と言える。

作者は近代ファンタジーの父である。伝承の中でのみ生きていたドワーフやエルフの世界を現代的な物語として作り上げて見せた。いわばジャンルの創始者だ。ミステリにおけるポー、SFにおけるヴェルヌとウェルズのような重要人物と言えるだろう。

上下二冊をあっという間に読んだ。読みやすく、がっつりと内容がある。
ホビットのビルボは、魔法使いガンダルフの依頼で十三人のドワーフとともに宝を奪回する旅に出る。人物描写がしっかりしているのに驚く。童話めいた話というのは善悪がはっきり分かれていて、愚者と賢者・臆病者と勇者のように役割が決まっていることが多い。本作はちがう。主流文学の一級品のように、あるいは現実のように、人物に多面性があるのだ。
主役のビルボは引きこもるのが好きなオッサンだが、旅や冒険にあこがれる一面もある。ドワーフたちは、使命感を持つ集団とはとても言えない。食い意地が張っていて、すぐにブーたれる。が、いざというときは頼りになる側面もある。確かにこういうものだろう。
上巻ではトロルや大蜘蛛との闘い、水棲人ゴクリとの謎々遊びなどがスリリングで印象深い。
下巻もエルフ城からの脱出やドラゴンとの闘いなど見せ場には事欠かない。が、何といっても最高に盛り上がるのは終盤の戦争だ。起伏が激しく、様々なアイデアが詰め込まれていて夢中で読んだ。

人間も亜人も依怙地で利己主義者という容赦のなさが、昔の児童文学とは一線を画すところだ。さすがジャンル開拓者の力量である。不満を言えば、「ここでもうひと捻りほしかった」という場面が何か所かあるところ。たとえばドラゴン退治の下りなどは、あっさりしすぎているような。

それを考慮しても、傑作には違いない。感心にダメ押ししてくれたのが、主人公の帰郷を迎えるホビットたちの態度だ。苦い納得は大人の味か。★★★★
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