1994年の“春はあけぼの”〜追悼・曙太郎

曙が所属していた東関部屋の春場所宿舎は平野・大念仏寺。1993年夏、結婚を控えた私はすぐ近くにあるマンションを購入、ただし入居は全面完成する翌年の春。それまでしばらく喜連瓜破の賃貸に居た我々の引っ越しは、まさに春場所の千秋楽当日。片付けもそこそこ賜杯のゆくえが気になり夕刻はテレビに釘付けとなった。

貴ノ浪・貴闘力との優勝決定巴戦を制して横綱・曙７回目の優勝。そうか、優勝パレードに続いてそのまま彼は大念仏寺に凱旋、師匠(元高見山)のお出迎えがあるな…ニュース等でよく見かける千秋楽打ち出し後の歓喜の一場面。私と嫁ハンは夕食もそこそこに、まだ散らかったままの新居を後にして大念仏寺まで急いだ。

境内にはすでにご近所の平野区民が多数集結。やがてこの日のヒーロー曙が帰還するや大きな歓声。あたりはすっかり暗くなっていたけれど、あの大きな身体が闇に包まれるわけがない。引っ越し当日にこの吉兆、これからしばらくお世話になるこの町の住民として、これ以上の好発進はないなあと嬉しい気持ちで一杯になった。

このあと彼を近所で見かけたことはなかったけど、礼儀正しく気さくな横綱と地元民、とりわけ平野本通商店街の人たちとのふれあいは各メディアでもよく話題になっていた。運動具屋の女将だったか“平野のおばあちゃん”なる存在もいたような。あまりにも短い人生、謹んでお悔やみ申し上げます。安らかにお眠りください。