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2019年08月25日09:04

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『trigger』3

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「計(けい)」
 名を呼ばれ、振り返る。
 女、ダークグレーのスーツ、眼鏡の奥に切れ長の眼、ため息を吐き、しゃがむ。手に取ったのは破損した九子の腕部。
「経緯は後で聞く。スピーチの内容を考えておけ」
「スピーチ?」
「明日の午後三時、席を設けてやる。九体目のAndroidをスクラップにするという我が課始まって偉業、お偉方の前でせいぜい自慢しろ」
「ギョンミヤさん、その、ボクは」
「名前で呼ぶな。課長と呼べ」
「課長、聞いてください」
「言い訳か?いいぞ、聞いてやる。だがその前に、10体目の購入資金をどこから捻出すればいいのか教えろ。識別捜査課が万年金欠病なのは知っているだろう」
 計、足を鳴らして一歩踏み出し。
「聞けよ。ボクだって死にかけたんだぞ」
 ギョンミヤは眼鏡をかけ直し。
「人員の補充の方が安くつく。それより計、あれはなんだ」
 へたり込むAndroid、左肩にはミニランチャー、タイトスカートに革のブーツ。
「gearから送られた映像で把握しているだろ。いかれたハンターが連れてたAndroidだ」
「肩に載ってるあの馬鹿っぽい武器のtrigger、誰が引いたんだ?」
 計、口を開きかけて言いよどむ。ギョンミヤ、ローヒールをこつこつ鳴らし、女に近づく。
「お前、Androidじゃないな?」
「え?」
 目を見開く計、改めて女を見る。肩から出血している。 「計、Androidと人間の区別もつかないような識別官が、Zと人間を識別することができると思うか?」
 唇の端を噛み。耐えようとしたが変なプライドが邪魔をした。
「思いません」
 ギョンミヤは「ふっ」と優しく笑い。
「後片付けは任せて、この女を同行する。聞きたいことが山ほどある」
 計も同意見だった。涙目になっているのを悟られないよう、あどけない顔に似合わぬサングラスを掛け、ギョンミヤの後に続いた。
 スニーカーが、九子のパーツを踏んで破裂音を立てたが、動じることはなかった。
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