明日は七十七回目の「敗戦の日」ですね。
ということで、岡本喜八監督の「江分利満氏の優雅な生活」を久々に観ました。
この作品は直接戦争を描いたものではありません。しかしここでは「あの時代」を生き、そして生き残った人の怒り、悔恨、そして諦念がはっきりと描かれております。
江分利満、三十六歳。サントリーの宣伝部に勤める月給三万六千円のサラリーマン。
平々凡々たるこの人物の戦中・戦後の人生をこの作品は軽妙・軽快なタッチでユーモラスに語っています。
しかしその根底にあるのは同じ時代を生き、そして死んで行った名もなき仲間たちを悼む心です。
そして本作は観る者にこう語りかけます。
「本当に偉いのは、立派なのは、江分利みたいな奴だ。何の才能も取り柄もない男が発作を抱えた妻、喘息持ちの息子を守って無事に人生を全うしたら、これは快挙じゃないか」
そう、兵隊に取られながらも散華することなく帰還し、戦後を生き抜いて社会を築く一助となった者こそ、本当に讃えられるべきなのです。
私は「英霊」という言葉が大嫌いです。
「英霊に感謝しよう」などと口走る奴は信用しません。
英霊のおかげで今の平和な日本がある?冗談言っちゃいけません。そんな言葉で戦没者を礼賛することはかえって彼らを冒涜するものです。敵の銃弾に肉を裂かれ、はらわたをちぎられて悶え苦しむ人の耳元で「いやー、死んでくれてありがとうございます。あなたのおかげで私達は平和を享受してまーす!」と叫ぶようなものです。
戦後を生きる私達がすべきことはただ、戦没者の霊の前で黙って頭を垂れ、二度と卑劣な戦争礼賛者に組しないと誓うことだけです。
真に顕彰すべきは、戦後を懸命に生き、耐え抜いた人々です。
「江分利満氏の優雅な生活」の主人公、江分利満のような人間なのです。
ログインしてコメントを確認・投稿する