トラックの排気ガスが作り出した小さな曇天、陽が橙の光線で霧散させた朝、縁石に寄り添う軍手の片割れと出会う。
アスファルトに擬態せんばかりの濃灰色、雨風に繊維は解れ、疲弊しきっているのがここからでも見て取れる。
でも軍手は諦めてはいない。待っているのだ、望んでいるのだ。生き別れた片割れとの再開する日を。絶望という絶望を味わい尽くした後に、仕方なくやってきた希望。目に見えぬ粒子程の質量しか持たぬそいつを、軍手は握り締め、今日も日を浴びる。
何とかしてやりたいが、僕には拾い上げる資格はない。仕方なく空想の言葉群れをかき集め、幻灯として浮かべる。
一番(つがい)の軍手
色彩を失った仮死の蝶
朝空に踏みつけられている
吹き降ろし一陣
びゅうと吹いた勢いで
蝶は舞う
高く
遠く
遙か遠く
寒風にヒッチハイクして
飛んでゆく
どこまでも
見えなくなるまで
たぶんいつの日か彼ら
軍手の楽園に辿り着き
安住を得て遂には
小さな軍手を産むだろう
悠久とまで云える時に埋もれ
幸せに暮らだろう
目をそらし縁石を踏み越え僕は出社する。排気ガスに微かに咽せて。
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