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2019年08月28日13:27

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『Trigger』 4

「あれー、帰っちゃうんですか?
 甲高い男の声。
「チッ、面倒なのが来た」
 異様に細身の男近づいてくる。
「聞こえてますよー、ギョンミヤ課長」
「椛島、…………さん」
 ぴくり眉を跳ね上げ――
「私を呼ぶときは、ちゃんと役職で呼んでくださいよー、公安部Z体防疫課課長兼Z対策特別機動隊隊長、椛島秀一郎とね」
「……失礼しました」
 軽く頭を下げるギョンミヤ、耳が真っ赤だ。――天敵登場だな。計は関わり合いを避けるよう、気配を消す。
 ギョンミヤ、小声で――計、女を隠せ、傷口を奴に見せるな。計、リアクションなしで、そっと女に寄り、後ろに追いやる。
「識別課はー、Z体の割り出しが職務、戦闘はやむを得ない場合のみでしょー?Z指数が95を超えた場合は防疫課に連絡、被疑者が暴走する懸念がある場合は、特機へ連絡、分かってますよねー?」
「……ああ」
「ふ−、ギョンミヤ課長になってから、臨戦の頻度が上がっている気がするんですがー、どうしてでしょうかね?」
「うちとしても、可能な限り戦闘は避けるよう動いているが、こういったことはなにぶんケースバイケースなので……」
「ま、それはそれでいいでしょう。それよりも、どういうつもりですかー?これだけ現場を荒らしといて、後始末もせずに帰るなんて」
「済まないが、急務が出来た。課に戻らせてもらう」
「うーん、急務ねー、どういった案件ですかそれは」
「また機会を設けて説明する。なにぶん急いでいるので、失礼する」
「それ、androidですかー?」
 計、硬直する。ギョンミヤ、笑顔をピクくかせて――
「見ての通りだ。椛島課長、うちの者を三名残していく、済まないが防疫課の方で後をお願いしたい」
 深く頭を下げる。耳が爆発しそうに赤熱している。――相変わらず、怒ると耳が赤くなるな。計は、この後八つ当たりされるのではないかと想像し、肩をすぼめる。
 パチン――椛島、指を鳴らし。
「いいでしょー。貸し一つということで。ただし、データは共有させてくださいよー。解析するんでしょ、そのandroid」
「ええ、まぁ……」
「いつぞやみたいに情報を秘匿して、機動隊に損害を与えるなんてことは勘弁してください。同じ公安部所属なんですから、ねー」
「……失礼する。行くぞっ」
 早足で歩きだすギョンミヤ、慌てる計、女を隠しながら、ギョンミヤの後に続く。エントランスを出て、車に乗るやいなや。
 ダンッ
 ハンドルに両腕を叩きるギョンミヤ。
「제기랄!」
 バックミラーを通して計を睨みつけ。
「元はといえば、計、すべてお前のせいだからな」
 急発進する車。体勢を崩す女を支えようと計が腕を掴む。
「痛いっ」
「あ、ごめん」
 計の手のひらに、女の血が付いた。赤く、温かい。まじまじと女を見る。湧き上がる疑念、言葉にしようとしたが、堪えて飲み込んだ。こんなところで尋問を始めても仕方がない。カーブに差し掛かるたびに悲鳴を上げるタイヤ、ぐらつく車体。女は、不安げに窓の外を眺めている。

**********

「お、噂をすれば」
 煙草を挟んだ枯れた指、ドアを指す。ギョンミヤ、計、そしてandroidと思われる女の三人連れの姿。
「お帰りなさいませ」
 笑顔で迎える受付嬢の隣に立つ男、煙草の灰を床に落とし、濁声で――
「計、また俺の娘を殺してくれたそうだな」
「ジンさん……その……」
「終わったことは仕方ない。また葬式するから線香の一つでもあげてくれやそれでいい」
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