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2019年08月09日00:15

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『trigger』 2

 ホールに銃声が響く。
「松果体を撃ち抜いたか?」
「視床髄条の直下を貫通させました。でも油断しないでください」
 九子、カウンターの向こうに回り込む、しっかりと銃を構えたまま。
「腫瘍等により、松果体の位置がズレている可能性があります」
「心配性だな」
 九子の肩を押しのけ、倒れた女に近寄る。しゃがみ込み胸に掛けられたIDを引きちぎる。
「山村詩織……」
 gearに情報が浮かぶ――
「26歳、過去三度のZ体検査、すべて異常なし、か。でも見ろよ」
 遺体、額に穴、しかし出血はない。傷という感じではなく、ただの無機質な穴。
「出血が認められません。14時5分24秒、被疑者、山村詩織をゾルタクスゼイアンと断定します」
「ちょっと待てよ!」
 この騒動の元凶、金髪皮ジャンの男、タイトミニを連れて近付いてくる。
「兄ちゃん。なぁに人の獲物を横取りしてんだ?」
「ハンター?本物の?」
「ああ?本物に決まってんだろ?」
「仮装かと思ったよ」
「あ?舐めてんのか?」
「本物なら知ってるだろ?規約を」
「あ?なんだそれ?」
「『市民の安全と権利を尊重する』ってやつ」
「知らねぇよ」
「さっきのはやり過ぎた」
「うるせー、そんな事より分かってるんだろうな?コイツは俺の獲物だ」
「で?」
「貰ってくぞ」
 男、押しのけ、女の遺体を肩に担ぐ。
「待て、検死官が来るまで――」
「さっきから何なんだテメェは、うっ」
 男、突然表情を歪める。顔が赤変し、白眼を剥き痙攣。
「まずいっ!九子」
「退いてください」
 山村詩織の遺体が、目を見開き、男の首を締め上げる。
「撃て」
「copy」
 銃声、額に穴が幾つも開く。しかし山本詩織は動じない。肌が変色してゆく、紫と黒の中間色に、背が盛り上がり、肩甲骨の辺りが破けて触手が伸びる。煙り上げる粘膜を垂らしながら。
 ドサリ、自称ハンターの男が床に落ちた。異様な角度に曲がった頸、死は一目瞭然。2メートル手前に、微動だにしないタイトミニのandroid。
「九子、弾は?」
「撃ち尽くしました。戦闘モードへの移行を提言します」
「許可する」
 九子の体が変化する。両腕が割れ、刃物が現れる。飛ぶ、山本詩織だった怪物目掛けて。怪物が体を捻る。触手が一本吹き飛び、タイトミニの太ももに粘膜を散らしながら、ブーツの上に落ちる。
「おい、そこのandroid、加勢しろ」
「…………」
「クソっ!役立たずめ」
 男の死体を睨みつける。(せめてコマンド出してから死ねよ)。
 怪物が吠える。
「私はぁぁぁ、人間でーす」

 突っ込む気にもならない。
「九子、そいつを足止めしろ」
「copy」
 男の死体に飛びつく、(gearをhackしてあのandroidにランチャーを撃たせてやる)。触手が落下してきて、男の死体を吹き飛ばす、破裂する頭部、gearも当然粉砕。
「しまった」
「master!」
 九子が目を離した隙に、再生された触手が九子を締め上げる。天井付近まで持ち上げ、一気に床に叩きつける。ボディーから液漏れ、バチバチと散る漏電の火花。
 今更応援を要請したところで、駆け付けるころには、死体二つと破壊されたandroid二体。覚悟を決めた瞬間。

「伏せて」

 タイトミニランチャーが火を噴いた。
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