イスラエル映画。男と男、男と女、そして国境や文化を越えた愛。ベルリンでケーキショップを経営する青年トーマスは、イスラエルから出張のさいたびたびお店にやってくるビジネスマンのオーレンと愛し合う間柄に。オーレンの事故死を聞いたトーマスはエルサレムまで向かい、彼の妻アナトが経営するカフェにころがりこむ。トーマスとアナト、ふたりの距離はやがて…。
つまり同じ男を愛した男と女のあいだはやがてどうなるのかというセンシティヴな構図が前提としてあり(秘密がいつバレるかというスリルこそが映画の味わい)、さらにイスラエルの地にひとり飛びこむドイツ人という歴史的にやっかいな人間関係が重なる。くわえてケーキという食物がテーマ、ここに厳しい戒律による食物規定などさまざまなユダヤ文化がまとわりついてくる。
トーマスのあまり喜怒哀楽を前面に押し出さないキャラのように、よけいな演出をいっさいはぶいたシンプルかつ繊細なつくり、そして静かな時間が続く。空気はつねにどんよりとしていて、お菓子をテーマとするわりには明るく華やかな部分はほとんどない。そしてヘブライ語・英語・ドイツ語がとびかうことが、人間関係や文化の違いをあらわす重要なアクセントになっている。
ノーテンキな“スイーツショップ繁盛記”でないことはいまさらながら、数多くのケーキがアップで映し出され、それぞれが美味そうでたまらない(私自身の経験と印象では、欧州各国のなかでもっともふつうに美味しいケーキに出会えるのがドイツだと思う)。さて物語のほうのあと味はいかなるものか、苦いのか甘いのかは観てのお楽しみということです。
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