彼女を忘れたい――俺の望みはそれだけだ。信号を待ちをしていても、ご飯を炊いていても、Excelのセルを拡大していても――彼女のことを思い出し、熱くなる。目頭が――線香を押し付けられたように痛みを伴う熱で疼く。涙では鎮火できそうもない。 『思い
河原に男がいる。河原といっても水無し河で、どこまで行っても丸こくて小さな石が地面を埋め尽くしているだけ。男と小石と時間、それだけがそこにある。 何もすることが無い。仕方がないので、男は石を積み始めた。できるだけ平たくて大きな石から始めて、
朝の光が窓辺に腰かけている。そろそろ午後になる。昼の光がやってきて話しかけてきた。「交代だぞ」「分かっている。ちょっと待ってくれ」 昼の光は不機嫌そうに、「待てないよ。だってもう時間だぞ」と言った。「朝の光は分かっている」と言うには言うが
「生きなきゃ……」 羽化に失敗した蝶、湿った地面でバウンドし転がる。小石に打ち付けてしまった皺皺の翅が、深刻な角度で捻じくれている。うわ言のように前言を繰り返し、柊の幹に向かって這う。まだ乾ききっていない脚、これもまたあらぬ方向に曲がってし
仕上げにガスバーナーで表面を軽く炙って焦げ目を付けた感情を僕は水曜日と木曜日の間に稀に存在するという閏曜日に、明確にそうこれ以上なく明確に曖昧なままにしておこうと決意、いや決うぃしたのです。なぜならばそれは蒼天に輝く昴のようにあるんだろう