今夜発表される第171回芥川賞候補作品。今回の旅のお供として読了。ロックバンド”GiCCHO”(ギッチョ)のリードボーカル、以内右手(いないみぎて)の密かな楽しみは、ネットに向き合いエゴサーチをくりかえすこと、そして転売サイトを渡り歩きながら、自らのチケットにプレミアがついていく喜びを味わうことだった…。
”バンド成功譚”的爽快感はまったくなし。そもそもバンドメンバーは登場人物でさえあらず。そこにあるのはミュージシャンとしての行き詰まりを感じ、自らの声に不調を抱えたままの以内自身の心のつぶやき、そしてエゴサーチによって得た数多くのネットの声、さらに以内の気持ちをもてあそぶカリスマ”転売ヤー”通称エセケンの存在。
著者がひきいるバンド・クリープハイプのファンはニヤニヤしてばかりかと想像するも、音楽好きそして日々転売サイトにお世話になっているこちらとしても、以内のなかにどこまで著者自身が投影されているのか、虚と実の境目がどこなのかとても興味深く、ライブ時におけるパフォーマーの心象風景はとてもリアルで生々しく感じた。
あまりにも現実離れした展開をクライマックスとしながらも、ラスト2ページの段落が意味するところはいったい何だろうか。こちらの読解力不足をたなに上げながらも、いろいろと解釈ができるのがいかにも純文学かと。行くところまで行ってしまったネット社会そして転売サイトの世界、近未来小説としても面白く読めると思いました。
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