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2024年04月01日09:32

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映画「オッペンハイマー」

アメリカの天才的物理学者・ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は、ヨーロッパに渡ってボーア(ケネス・ブラナー)などから学び、量子物理学の第一人者になっていく。
1930年代にアメリカの大学で教鞭を執っていたオッペンハイマーは、ナチスドイツのポーランド侵攻、そして、ナチスも「原子爆弾」の開発に着手していると知り、ユダヤ人の彼は、ナチスへの対抗もあって核爆弾の研究を急ぐ。

一方、スペイン内戦に関して彼は、学内で義勇軍への支援を呼び掛けたり、労組の結成を図ったりした。彼の実弟は共産党に入党、オッペンハイマーの恋人や妻も当時は党員だった。

1942年、クローヴス大佐(マット・デイモン)は、「マンハッタン計画」のリーダーとなる。オッペンハイマーは幼い頃からよく知る土地・ロスアラモスに研究所を作り、アメリカ中から研究者やスタッフを集める。それはまるでひとつの町のようだった。
だが、研究者の中には「物理学300年の集大成が、『大量破壊兵器』なのか?」と疑問を呈する者もいた。

1945年5月、ドイツが降伏。これ以上、原爆開発をすすめる意味があるのか、という意見もでるが、オッペンハイマーは「まだ日本が残っている」と主張、ポツダム会談の直前に、核実験に成功。それはすさまじい爆発と破壊力だった。

8月6日と9日のヒロシマ、ナガサキへの原爆投下は、オッペンハイマーはラジオで知った。
彼は「戦争終結を早めて多くの兵士の命を救った」英雄として祭り上げられるが、わきたつ群衆の中に、彼はヤケドした被爆者や、瓦礫の幻影を見てしまう。


アカデミー賞受賞で話題性充分のこの映画、実のところ、見ていてとてもわかりにくい(;´∀`)。
というのも、上記のあらすじは時系列で書いたのだが、その後1954年の「オッペンハイマーが国家機密にアクセスできる権利があるかどうか」、の密室での聴聞会の様子と、1959年に、米国原子力委員会長官だったストローズ(ロバート・ダウニーjr)の、オッペンハイマーとのかかわりに関する公聴会の様子と、戦前のオッペンハイマーのシーンとが繰り返し入り乱れて現れ、よく見ていないと混乱してしまう。

戦前に共産主義に傾倒していたことを、戦後の「赤狩り」がきっかけでとがめられ、米ソ冷戦の中、ロスアラモス研究所にもソ連のスパイがいたのではないかと疑われ、オッペンハイマーは、英雄の座から滑り落ちてゆく。

そして物語の中では、戦前からなにかとオッペンハイマーと確執の多かった、ストローズの視点も描かれ、それがなおさら、物語を複雑にしている。

昨夏、アメリカでこの映画が封切られたあと、なかなか日本公開が決まらず、「題材が題材だけに、日本では公開はないのかなあ?」と思ってたが、通常なら配給する大手の東宝東和ではなく、中堅のビターズ・エンドの配給となった。

日本の封切りの前に、広島や長崎で「先行試写会」がおこなわれ、やはり「被爆地での惨禍の描写が全くないのは問題」という意見もでたが、被爆者団体からは、
「これを機に、核兵器廃絶を考えるきっかけになってほしい」というコメントがあった。

わたしは夫と一緒に見に行ったのだが、長崎県人である夫は、
「オレは正直、この映画を見てアメリカ人が核兵器廃絶を考えるようになるとは、とても思えないね。まあ、被爆者団体の方々は希望を込めて、ああいう言い方をしたんだと思う」。
わたしは、核廃絶を考える映画と言うより、オッペンハイマーという人物の栄光と転落と、世界情勢に翻弄された人生ドラマだったんだな、と思った。
それなら、広島や長崎を描く必要はないのかもしれない。
しかし、原爆投下後、米軍が被爆地に赴いて、現地の被災者や焼け野原になった街を映したフィルムの上映を、オッペンハイマーが見るシーンがある。
彼はうなだれて目をそらす。そのシーンに、実際の広島や長崎の映像をさしはさんでもよかったのではないか?

わたしの友人のお父様は、広島の被爆者だし、被爆はしなかったものの、義母は8月9日に、長崎市から20数キロ離れた自宅で「変な雲が出ている!」の家族の大声に外に出て原爆のキノコ雲を目撃。その後、長崎市内から運ばれてくる被災者の救護の手伝いをした。

人間の叡智というものがつきつめた先にあったのは、アインシュタインが言うように「破壊」だった。
核を手にした人間には、とても手に負えるものではなかったにもかかわらず。

アインシュタイン役はトム・コンティ。
「戦場のメリークリスマス」のローレンス役である。「戦メリ」を見て彼のファンになったものの、その後、彼が出演の映画はあまり見る機会がなく(2本ぐらい見ただろうか)、こんなところで彼を見ることになるとは。
「戦メリ」キャストは、坂本龍一もデヴィッド・ボウイも内田裕也も、そして大島渚監督もなくなってしまっただけに、個人的な感慨がある。
(3月30日、イオンシネマ筑紫野)
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