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2024年03月13日17:46

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落下の解剖学

 第96回アカデミー賞の最優秀脚本賞を受賞しましたね、「落下の解剖学」。
 私もこれ、受賞にふさわしい見事なものだと思いました。

 自宅で謎の墜死を遂げた男。これは果たして事故か、自殺か。それとも?
 現場にいたのは男の妻と、その息子。しかし二人は落ちる瞬間を見ていません。しかも、息子は視覚障害者。やがて妻には殺人の嫌疑がかけられ、裁判になるのですが・・・。

 最初はあまり観る気がしなかったんですが、ある方面から「これ法廷劇だよー」と聞かされ、その手のものが好きな私は俄然その気に。で、実際観てみたら面白いじゃありませんか。
 しかもフランスの裁判って英米のそれとは随分違うんですよね。
 よくアメリカ映画の裁判劇であるような、証人に対する検察官と弁護人との交互の質問とか、陪審員に向けての弁論だとか、そういうのがないんですよ。
 一方が喋ってる時に相手が口を挟んできて証人そっちのけで乱戦状態になったり、被告が急に話し始めたりと、ほぼカオス。
 しかも裁判長は「あんたの質問の仕方、うざい」みたいなことを平気で言っちゃうし。
 何かこう、法律論よりも情動によって「事実」を超えた「真実」に迫ろうとするみたいな感じに見えて、裁判って本当に国によってありようが違うんだなあと感じ入りましたね。
 ただし、文芸評論家の故・瀬戸川猛資氏がもし存命であったら「こんなの裁判劇じゃない!裁判というのはもっと硬質な、論理と論理の争いであるべきだ!」と激怒するかもしれませんが。

 途中まで面白がっていた私ですが、後半で死んだ夫サミュエルが生前に密かに録音していた妻サンドラとの激しいやり取りの音声が証拠として提出されるに至って、心穏やかではいられなくなりました。
 これはもう、夫婦生活というものを長くやっている方々ならおそらく共通した思いであるはず。未見の方もおられるでしょうから詳細は申しませんが、何とも身につまされるというか、いたたまれない気持ちになりますね。
 私がこんなに我慢してるのに、とか、俺はこんなにいろんなことをやってるのに、とか、お互いに自分が自分が自分がー!って言い始めると収拾がつかなくなりますよね。どんな家庭でも、その状況は違えど気持ちのすれ違いやボタンのかけ違いで生じる葛藤、衝突は避けられません。でも、そこをうまく調整し、時には適度に距離を置いてクールダウンし関係を修復することもできるでしょう。どこの夫婦も家庭も、皆、そうしているのでは。
 残念ながらサンドラとサミュエルには、もうそれは難しかったのかも知れません。決して蔑んだり憎んだりするような、関係性の絶望的な崩壊に至ってなかったとしても。
 うちはどうかな・・・。大丈夫だとは思いたいですが。

 さらに気になるのは、息子ダニエルのこと。
 彼は裁判長の促しにもかかわらず裁判の傍聴を続け、結果、父と母の間に生じた深刻なずれがもたらしたものに直面します。
 観ていて、この子、大丈夫かなあ?って思わずにいられなかったです。
 賢い子だから、きちんと現実を受け入れられるだろう、なんて思ってしまいそうになりますが、そうでしょうか。
 賢いからこそ、冷静だからこそ、色々わかってしまうことや見えてしまうことってあると思うのですね。
 ラストでは一応裁判の決着は付きますし、その結果をきちんと受け入れはするでしょう。でも、その後はわかりません。年月を経て、いろんな経験をした後であの事件を振り返り、そこにある毒にもしかしたら侵されてしまうかも知れませんし・・・。

 何だか、とりとめのないことを長々と書いてしまいました。鑑賞してからかなり時間が経って、色々整理できるかなと思ったんですが、やはりちょっと無理みたいです。
 正直、私にはかなりキツい作品でした。
 
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