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2023年12月14日17:47

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窓ぎわのトットちゃん

 あの「窓ぎわのトットちゃん」が映画化される。
 しかもアニメーション作品として。
 そう聞いても、あまり食指は動きませんでした。
 しかしまあ、映画ってのは観てみなければわからないものです。
 これは大変な作品でした。傑作だと思います。あの「この世界の片隅に」に匹敵すると言ってもいいくらい。
 これは、多くの人に観てもらいたいなあと思いますね。

 黒柳徹子の原作は知らぬ者のないベストセラーですし、今さら内容についてはくどくど申しません。ただ、戦争の理不尽や、戦時下におけるさまざまな圧迫による心の荒廃を「優しいジュブナイルストーリー」の中に色濃く描いたあの物語が、活字で語られた以上に観る者に迫ってくる、とだけは言っておきましょう。

 まあしかし、驚きましたね。
 この作品、とにかく「アニメーション作品」としての完成度が恐ろしく高いんです。
 「この世界の片隅に」でも試みられていた「戦時下の暮らし」の再現の徹底ぶりもそうですが、人物の動きの見せ方というものが半端なく手が込んでいるんですねえ。
 例えば冒頭における、主人公・トットちゃんの細やかな動作。以前通っていた小学校での奇矯なな行動や、新しく入学するトモエ学園までの道のりで見せる騒がしさ。
 「落ち着きのない子供」に見られる、不規則で予測不可能な行動が、恐ろしく緻密に作画されているのです。これにはとんでもなく手間がかかっているはず。昨今の、記号化されたアニメ的な動きとは明らかに違う、「生身の人間の動きに対する飽くなき観察」によって生み出された、見事な動画表現だと感じました。
 また、トモエ学園にある電車教室を見た時にトットちゃんの頭の中に広がる「空想電車」のシーンの素晴らしさ。
 パステルで描かれたような画調で展開するファンタジックなこのシーンのダイナミックなこと!これこそアニメーション、と言いたくなるようなイマジネーションの奔流には誰もが目を奪われるのではないでしょうか。

 背景美術も、最近の新海誠作品や細田守作品等に見られるような「写実的で細密な背景」とは一線を画した、控えめだけれどその場所の空気や光を皮膚感覚で感じさせるような柔らかな筆致で描かれていて、好感が持てましたね(ちなみに美術監督は「この世界の片隅に」「風立ちぬ」の串田達也)。

 物語の素晴らしさを、選りすぐりのアニメーションスタッフが持てる技術を総動員して生かし切った、これは最高のアニメーション映画。そう言い切って、いいと思いますね。
 ここ2、3年の間に公開されたアニメ映画にも良いものはありましたが、「アニメーションでなければ表現し得ないダイナミズム」を兼ね備えたものはそうたくさんはなかったような気がします。本作はその数少ない一本です。
 必見ですよ。
 
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