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2023年11月26日17:38

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燃え上がる女性記者たち

 これは良い、という話をあっちこっちから聞いておりましたがなかなか観る機会がなく、このほどようやく川越スカラ座さんにて観ることができました。

 インドの最下層カーストの女性たちが発足させた報道機関カバル・ラハリヤの活動を追い、三人の女性記者を中心にまとめ上げたドキュメンタリー。
 「不可触民」「女性」というこの二つのワードだけで、もうヤバい感がひしひしと伝わってきますね。日本に住んでいてもインドでこの両者がどんな扱いを受けているかは余程の情弱でなければある程度は掴めますから。
 想像通り、かの国では貧困階層からの労働搾取が横行し、やる気のない行政によってインフラ整備は遅れ、女性への凄惨な暴力(特にレイプ)は日常茶飯事になっています。にもかかわらず、それらの事象は一般メディアからはほぼ無視。
 カバル・ラハリヤはそんな状況下で地道に取材活動し、証言を得て、これまで表に出てこなかった事実を果敢に伝えます。

 そのプロセスで明らかになるのは、さまざまな面で急成長を続けながらその一方で古い悪弊を温存し、時にはそれを巧みに利用して理不尽で暴力的な搾取を行う社会システム。
 また同時に、あらゆる側面で女性を抑圧し、型にはめ、可能性を奪う偏狭さも浮き彫りになります。

 こう書くと、力はこもってるけどなんだか堅苦しい社会派ドキュメンタリーっぽいなあ、と敬遠する向きもあるでしょうね。
 ご安心あれ。本作は深刻な現実や醜悪なシステムを告発するというより、カバル・ラハリヤで働く女性たちのヒューマニティを描き出すことに、より力点を置いております。
 最下層のカーストにありながら苦学してベテラン記者になった人や、かつては児童労働者として肉体労働に従事した人、ほぼ文盲に近い状態から懸命に英語を学んでスマホを使った記事作りをするようになった人など、とにかく厳しい現状になんとか自分たちの力で一矢報いたいと戦う記者たちの荘厳な姿には、誰もが胸を打たれることでしょう。

 私が何よりも感銘を受けたのは、一人の記者が証言者の家に招かれるシーン。
 その家の人は「土足のままでどうぞ」と言うのですが、彼女は黙って靴を脱ぎ、中に足を踏み入れます。
 注目度急上昇のメディアの関係者だからと偉ぶらず驕らず、一人の生活者としての姿勢を崩さぬまま取材対象に対面しようとする謙虚さは実に爽やか。
 日本のメディア人にもこういう姿勢と心構えを、守ってほしいなあ。

 辛い現実、醜い事件が多く描き出される本作ですが、作品から受ける印象は極めて清々しかったですね。
 歪んだ社会の一面を炙り出し、それを是正する力を持った「報道」と言うもののあるべき姿を改めて知ることができました。
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