舞台は昭和63年銀座の一角。一流のジャズピアニストを志ざす博(池松壮亮)は、とある雑居ビル内のキャバレーにて研鑽の日々。本場アメリカでの修行生活に憧れるも、この日本有数の繁華街を跋扈する魑魅魍魎の人種にほんろうされ…。ミュージシャン南博の同名回顧録が原作。監督は「素敵なダイナマイトスキャンダル」の冨永昌敬。
予告編がもたらしたスタイリッシュな雰囲気に惹かれたかたは肩透かしを食らうかも。池松壮亮が1人2役を演じたことはあらかじめ知らされ、作品全体にも仕掛けがあるとすぐ判るけど、ここは時を重ねているのかそれとも単に博自身の幻想なのか、ややこしさを感じているうち全体の空気はいつのまにかコメディタッチへと急カーブ。
シリアスなドラマからボケとツッコミが交差するドタバタ劇へ。作り手は絶対否定するだろうけど、何やら作品に真正面から向き合うことを途中で投げ出してしまったような印象。勝手な想像ながら、原作著者が体験したいくつものエピソードを、無理やりひとつのストーリーにまとめ上げようとしたことがもたらした結果では。
昭和天皇の闘病による自粛ムードまっただ中の時期とはいえ、バブル最盛期の銀座の雰囲気はそれほど感じられず、またジャズ音楽を切り口としてこの作品に向き合ったかたも物足らなさを覚えたままのエンドロール。観る側がぐいぐいと引っ張られていく熱量みたいなものが、最後までそれほど感じられなかったのは残念に思いました。
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