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2023年08月14日16:58

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バービー

 今日、急に仕事がキャンセルになったので(またしても利用者さん、コロナ陽性!)、朝イチで「バービー」を観て参りました。

 一部では「男性不要論を説いたとんでもない映画」みたいな声がありますが、どこを観て言ってるんだか、ですね。
 これは「一方が他方を不当を抑圧し支配することの愚かしさ」を描いた作品であって、男性がー、とか、女性がー、なんてものじゃないんです。フェミニズムがどうとか、なんてのも関係なし。自分の足で立って自分を見つめ、他者への想像力を持て。これが本作の根幹です。

 もっとも、私もガブリエル・ブレアの「射精責任」を読んでなかったらこうは考えなかったかもしれません。
 この本も「バービー」と同様「男性を不当に貶め、追い込んでいる」という批判を受けているそうです。
 よく読めば「女性は男性から(そして一部の女性から)肉体的にも精神的にも、そして宗教的側面からも抑圧されている。そしてそれによって女性の身体は過度のストレスとリスクにさらされている。抑圧側の人々には女性が過度にかけられている負担に対し想像力を働かせてほしい」という願いの書だとわかるんですけどね。
 責めたり糾弾したりしない。それよりも互いに歩み寄って考えて、より心地よい関係性を築いていきたい。この精神は「バービー」にも通じるものがあると感じます。

 バービーとともに人間界に行って男性至上主義に目覚め、バービーランドを支配しようとするケンは、パッと見ではおバカさんだしグロテスク。でも、彼をそうさせたのは何だったでしょう。バービーランドにおける、男性への敬意の不足。これなんですよね。
 単なる「おまけ」「サブキャラ」として扱われ、敬意を払われたことのない彼が人間の女性に敬語を使われたことで「男」に目覚めるというのは無理からぬことではないでしょうか。
 人間界に根強く蔓延る男性社会の歪みを、バービーランドも形を変えて抱えている。これが本作のキモであったと私は思いますね。
 ついでに言うと、黒ケンに支配されるバービーたちの描写も痛烈ですね。
 これまで大統領や最高裁判事などの要職に就いていた彼女らが「もう何も考えなくていいんだから楽じゃ〜ん」と男たちに嬉々として隷属する姿はどうでしょう。これ、製作者の意図を超え、今の日本人そのままの姿となってはいないでしょうか。
 自らの手で民主政治や人権を得たわけでなく、ただ敗戦後の社会変革の波に乗り、それらの概念の意味を理解せぬまま生きてきた戦後日本人。そのルーズさゆえに現政権政党の暴走を許し、自らの権利を捨て、「肉屋を支持するブタ」に成り下がろうとしているこの国の国民は、バービーランドを易々と明け渡したバービーたちにそっくりではないでしょうか(黒ケンの最終目的が「憲法改正」であると言うのも恐るべきジョーク)。
 
 キンキラキン(と言うか、どピンク)の華やかなビジュアルの中に隠された深い洞察に、戦慄を覚えずにはいられません。
 同時に、バービーが人間界で最初に学んだのが「他者への共感の涙」であったことに、微かな希望を感じます。

 「バービー」、傑作でした。
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