久田（草��剛）は、売れないライター。編集者（泉澤祐希）からゴーストライターの仕事を持ちかけられるが、彼は自分で書いてみたい物語があった。
離婚している久田は娘の面会日に、水族館で一緒にイルカショーを見る。
躍動するイルカ、そして部屋の中のサバ缶・・
久田の胸に遠い思い出がよみがえる。これを、書きたい・・
１９８６年の夏、長崎。
小５の久田（番家一路）は斉藤由貴が好きで、母（尾野真千子）と父（竹原ピストル）と弟の４人暮らし。両親はいつも派手な口喧嘩で、手も出て、うるさいぐらいだ。
久田は勉強はイマイチで、通知表を見た母からどやされるが、作文は得意で担任の先生からは激賞される。
いとこのお姉ちゃん（福地桃子）は、長崎市の浜屋デパートで働いていて、ときどき家に来てお土産をくれる。
彼のクラスに竹本（原田琥之佑）という少年がいたが、年中、同じランニング姿で「貧乏くさい」とクラスメートたちにバカにされていた。
ある日「竹本の家を見に行こうぜ」と、クラスの悪童たちとともに久田は竹本の自宅へ。
そこはかなりみすぼらしい家屋。
大笑いするクラスメート。でも久田はさげすむことができない。
竹本は悔しさをこらえて彼らを見つめる。
夏休みに入った日、突然、久田の家に竹本がやってくる。
竹本は「あの日、お前だけが、オレの家を笑わんかったけん」と言うのだ。
そして「ブーメラン島にイルカがおるらしい。イルカを見に行こう！」と久田に持ちかける。
そしてふたりは、久田の自転車に二人乗りし、こっそり早朝出発することに。しかし、父親に見つかってしまった。だが父は「これでジュースでも買いぃ」とお金を渡し、後部座席に座布団を取り付ける。
かくしてはじまったふたりの「真夏の大冒険」。
途中、自転車なんて役に立たない急坂をあえぎながら押して登り、タンタン山の頂上に着くともう昼。
しかしそこからの眺めは絶景だった。
みかん畑でこっそりみかんを取ろうとして、内田のじいさん（岩松了）に追いかけられ、
下り坂では、勢い余って転倒し自転車が半分こわれかけ、休憩に入った雑貨屋の前では、ヤンキー風の男たちにからまれてしまう。
それを助けてくれたのは金山（八村倫太郎）だった。
久田と竹本は、ようやくブーメラン島が見える海岸に。きらきら光る海が美しい。
しかし島まで泳ごうとして、足がつって久田は溺れかける。助けてくれたのは由香（茅島みずき）。
実はさっき店の前のバス停で見かけた美少女が由香だったのだ。
由香は焼きサザエをふたりにふるまってくれた。
採れたてのサザエの味は絶品だ。
浜辺には見慣れない文字の缶が流れ着いていた。久田がなんて書いてるんですか？とたずねると、由香はそのハングル文字を読みながら、これが流れてきた国には、まだ行ったことがないけど、と言う。
でもとうとうイルカは見つからなかった。
道中、久田と竹本は喧嘩もしたけれどそれ以上に思い出がいっぱいできた。
竹本はイラストもうまく、いつも学校の机に魚の絵を描いているが、その日も岸壁に石でイルカの絵を描いていた。
帰りは、金山が由香とともに、軽トラで、ふたりを家の近くまで送ってくれた。
そして久田の家に帰りつくときにはふたりは「ひさちゃん」「たけちゃん」と呼び合う仲になっていた。
すっかり仲良しになったふたりは夏休み中、釣りに行ったり毎日遊んで回った。
竹本の家にも久田は行った。母子家庭で、５人きょうだい、竹本のキレイな母（貫地谷しほり）は、昼も夜も働きづめだった。
お鮨が好きだ、という久田のために、竹本はサバ缶を取り出し、「漁師の父ちゃんがつくってくれた」という「サバ缶鮨」を握ってやる。そのおいしさに、久田は驚く。
夏の終わり、竹本の母は仕事帰り、事故で急死してしまう。
そのことで５人きょうだいはちりぢりになり、竹本も親戚のおじさんの家に行くことに。
学校のお別れ会もなく、突然の別れ。
久田は、サバ缶をありったけ袋につめて、島原鉄道の駅へと走る。
海の見えるホームへ息せき切って駆けつけると、そこには内田のじいさんも「すっぱくて売りモンにならんみかんだから」と、みかんを山ほど持参してくるのだった。
そして列車が発車し、ふたりに別れがおとずれる。
あの夏、竹本は久田に「ひさちゃんは、本を書く人になればいいと思う」と言った。
その言葉通り、売れないながらも久田はライターになった。
そして、竹本は長崎で寿司職人になったのだ。
久田は何十年ぶりかで、長崎に帰省しようと考え付く。
予告編を見たときから、長崎が「準地元」のわたしは、見に行きたいと思っていた映画である。
これは少年の、昭和の終わりの夏休みの冒険を描いた、長崎版「スタンド・バイ・ミー」である。
ああ、小学生の夏休みってこうでなくっちゃ、と思う。
日が暮れるまで遊ぶ、行ったことのないところに、つい行ってみたくなる。
久田と竹本の友情、彼らを見守る親たち、そんな人間模様が暖かい。
ロケは長与町、時津町、西海市、島原市などでおこなわれている。
目の前に海の見える島原鉄道のホームは「古部駅」で撮影されたようだ。
映画に出てくる場所は、３６年前の光景の設定でも、さほど昔と変わっていないだろう。
挿入歌の斉藤由貴の「白い炎」も懐かしい。
TVドラマ「スケバン刑事」のエンディングテーマで、わたし、レコードも買って持ってましたよ。この歌、大好きでした。
金山と由香は在日コリアン、という設定ではないかと思う。
いまみたいに「韓流」などなかった頃の話だ。
俳優陣もけっこう長崎弁がサマになっている。
関西出身なのに尾野真千子の、機関銃のような長崎弁が爽快。
久田役、竹本役のふたりの子役も、関東出身らしいけど、よく長崎弁のセリフをマスターしてるなあ、と感心。
ふたりが駅で別れるシーンでは館内あちこちですすり泣きが。
郷愁と、のどかな風景と、人情があたたかい、ほっとする映画です。
（９月８日、TOHOシネマズ梅田）
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