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2022年07月19日17:33

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☆洋ちゃんの読観聴 No. 1551

☆洋ちゃんの読観聴 No. 1551        

岩井圭也 「竜血の山」                  

著者は30代半ば、デビューしてまだ4年。だが、今
注目の作家の一人である。前に僕は著者の「水よ
踊れ」を読み、今後期待できる作家であるとここで
書いた。

本作品は昭和13年から30年間にわたる北海道の
水銀鉱山と共に生きた男と、その家族、友人、
関係者らの物語である。

工業振興と軍需のため日本が水銀を求めていた
時代、技師の調査員が北海道の道東にある懐深い
山に入り、そこに地元で獲れる水銀により細々と
暮らす集落を見つけた。この人里離れて暮らす
集落の人々は、普通の人なら水銀蒸気で中毒に
なったりするが、水銀耐性がある。飲んでも平気
のようだ。

やがて企業が入り、集落の人たちは渋々水銀
鉱山の開発を承認し、彼らも鉱山で働きだす。
水銀耐性のある彼らは貴重な戦力でもあった。

鉱山の鉱夫を増やし生産を上げたい企業と、
豊かになっていく恩恵を感じながらも昔
からの伝統も維持したい集落の人たち。

第二次世界大戦が終わり、水銀需要が下がるが、
朝鮮戦争で再び軍需が高まる。だが、それも
戦争が終わると需要が下がる。また、水銀に
代わる金属も開発され、次第に鉱山の行方は
厳しくなってくる。また九州では水銀を原因と
する水俣病が社会問題化した。

この集落で生まれ育ち鉱山で働く主人公と
家族、昔からの友人たち。彼らは集落をみつけて
くれた技師、今では鉱業所の所長への感謝の
気持ちと恨みとが混ざった複雑な気持ちを抱く
ようになる・・・。

社会と時代の変容に翻弄される純朴で不器用な
人たちの葛藤が見事に描かれている。彼らも
よい生活がしたい、お金もほしい。だが仕事は
楽でないし、企業の理屈もよく分からない。
主人公らは学校も出ておらず字も読めない
のだ。労組ができ、幹部に祭り上げられても
その役目を十分果たすこともできない。

そして集落には昔から奇妙な伝承がある。
ときどき人が姿を消すのだ。これはどういう
ことか?

伝奇小説的要素もあるが、基本的には社会派の
小説である。主人公とその家族、幼馴染の友人
らは必ずしも前向きな志向があるわけではないが、
感じた憤りには行動する。だが、その行動は
熟慮の上のものではなかった・・・。

この著者は誰に似ているのだろうか? ハード
ボイルドではないが、昔の船戸与一のような
雰囲気もあるし、熊谷達也のような気風も
感じられる。
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