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2022年02月17日19:34

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憂愁なる詩情 ( 映画『国境の夜想曲』)

ナレーションもテロップもBGMも無し。
映し出されるのは、中東の“ある地域”で撮られた様々な風景と人たち。

獄中死した息子を、詠唱するかのような節をつけて悲痛な言葉で悼む母親たち。
遠くで銃声が聞こえる中、湿地帯で漁をする男と案内人の少年。
無言で任務に就く女性兵士部隊。
精神病院内での演劇プロジェクト。題材は“難しい”政治状況を風刺したものらしい。
ISISに迫害された子供たちへのカウンセリング。彼らはどうやらイスラム教ではないマイノリティのようだ。
赤い囚人服を着せられた受刑者たち。彼らが何人で何の嫌疑なのかも明らかにされない。

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ひたすら観てるだけでも彼らの誰もが苦しい状況に立たされ、それに耐えながら黙々と暮らしているのが見てとれる。
最初に述べたように、イキサツはいっさい説明はされない。それが逆に彼らの尊厳、生き続ける切実さを静謐な力強さで語りかけているかのようだ。
難民キャンプ、破壊された橋、廃墟の街といった生々しい風景とは対照的に、一服の名画を思わせるような映像が幾つも映し出される。それは、彼らの大地に「国境線」を勝手に引いたのは余所者である欧州列強であり、その無責任さが後々の禍根を遺した。我々はそれを忘れてはいけないという無言の訴えではないだろうか。
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監督は『ローマ環状線、めぐりゆく人生たち』(14年)、5年前の『海は燃えている、イタリア最南端の小さな島』のジャンフランコ・ロージ。前2作と同じ“観察”に徹し切った揺るぎない眼差しは変わらない。
しかも今作はきわめてデリケートな“場面”でもかなり近く、話し声が聞こえるほどの距離感で収めてるのはすごいことだ。“取材者”の態度だけではこれは無理で、よほどの信頼感が無いと出来るものではない。だからなのだろうか、どれだけ厳しい現実を目の当たりにしても決して説教くさく感じないのは。
また、『海〜』に続く難民問題が題材でも、地中海の陽光溢れるそれとは違って本作が映す背景はつねに夜か夕暮れ、あるいはどんよりとした空。それが意図するのが何かは明らか。ロージ監督が唯一“狙った”ところがあるとすればそこなのだろうか。

フォト【予告編】https://youtu.be/cdU23an713E

終映後に買い求めたパンフで解ったのが、撮影されたのがシリア~イラクにまたがる「クルド人」に対してだったこと。
「国を持たない最大の民族」と言われる彼らこそ、勝手に(?)引かれた国境線によって分断された悲劇を背負わされてるのはよく知られてるところ・・・なのだろうか?

今をときめく濱口竜介氏との対談も良かった。濱口さんの受け答え、感性はやっぱり素晴らしい。これだけでも750円出す価値はあったと思うアナクロな自分です(笑)
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〈テアトル梅田で公開中〉

『海は燃えている イタリア最南端の小さな島』(日記)
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1958941864&owner_id=26940262

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