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2022年02月11日17:20

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無言の想い ( 映画『春原さんのうた』)

3年前のちょうど同じ頃に観て、その暖かな余韻が格別だった『ひかりの歌』の監督、杉田協士の新作は、その前作と同じように、ある短歌をモチーフにしたもの。

『ひかりの歌』も極力説明を省いた「奥ゆかしい」演出だったのだけど、本作はさらに抑制を強くした、焦ったいくらいに“読み解く努力”を要するストーリーです。

沙知という女性がアパートに越してきた。どうやら、その部屋で前に住んでいたのは彼女の近しい女性らしい。
その人は今はもう居ない。それがなぜか?友人なのか姉妹なのかも明かされない。
折となく沙知を気遣って訪ねてくる叔父があるとき、とつぜん彼女の前で涙ぐんでしまったり、部屋の借主であった日高という男性の妹がやってきて、沙知を無言でハグして慰めるなど、どうやらそうとう悲しい別離だったらしい。
その「もう居ない彼女」の幻影(?)がなぜか幾度となく現れる。
フォト


沙知は喪失感を時間で洗い流そうとするように、あるカフェで働きながらひっそりと暮らす。様々に、静かな出会いがある。淡々と移ろう日々。

台詞も言葉少なげで、喋るトーンもきわめて軽い。というかほとんど“ボソボソ”だ。つまり我々が普段取り止めのないお喋りをするのと同じ。
撮影は据え置きの自然光。しかもその視点を外したり遮ったりするような“反則技”も見せたりする。日常の眼差しに徹した映画は少なくないが、ここまで非ドラマ的に“引き切って”いるのに戸惑うばかり。しかし観終わって切なさと優しさがじんわりと収束していくのは前作と同じ。
杉田監督、まさに短歌のような静謐な作劇力。しかも“迷い”が無い。
やっぱり只者ではないとあらためて。これはただいま爆上がり中の濱口竜介に負けてもいないと思った。

なお、「春原さん」は沙知の苗字なのか、失くした「彼女」なのかも全く明かされない。

フォト【予告編】https://youtu.be/EJdOArEQKTY

〈シネ・ヌーヴォで公開中〉

〈『ひかりの歌』日記〉
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1970363957&owner_id=26940262
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