2年前に「ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん」を観た時、「こんな傑作、めったに出会えるもんじゃない!」と思ったものですが、同作の監督レミ・シャイエがさらに凄い作品を創り上げてくれました。
「カラミティ」、お世辞抜きに、素晴らしかったです。
最近の日本アニメによく見られる「とにかく背景を細密に!リアルに!」をウリにする傾向とはまったく逆の、極限まで単純化された背景美術と、枠線を排した人物作画。これが、アニメーションというものが本来持っていた「絵が動くことの驚異」を観る者に再確認させずにおきません。
陰影もなく、派手な特殊効果もないけれど、考え抜かれた上で作り出された色彩が、山や森や大草原の空気や光を見事なまでに表現していることに、驚かずにはいられません。画面から「西部」の匂いが漂ってくるような、そんな気分になりましたよ。
そして何よりも大事なのは、本作が娯楽作品として第1級の出来映えであるということ。
幌馬車隊に次々に襲いかかる危機また危機、野生動物の襲撃、幌馬車隊の金品を奪った泥棒の追跡などなど、とにかくハラハラドキドキのエピソード満載で、飽きさせません。
そんな困難の中で、「女性」であるがために蔑まれ虐げられながらも敢然と立ち上がり行動するマーサ・ジェーン(後の女ガンマン、カラミティ・ジェーン)が最高にカッコいい!
どんなにバカにされようと懸命に馬術や幌馬車の操縦を覚え、投げ縄術を体得し、思い上がった男たちにしっぺ返しを喰わせて自ら生きる力を身につけてゆく彼女の姿は実に雄々しく、痛快です(彼女が無礼な男たちに投げつける「クソ頭!」という罵言が傑作)。
しかしながら本作はことさらジェンダーフリーを振りかざしたり大仰に喚きたてたりはしません。
マーサ・ジェーンが周囲の白い目にも負けずジーンズを履くのは、馬に乗りやすいから。
髪を短く切ったのは、単に邪魔だったから(彼女が髪を洗うのに手間取ったせいでピューマに襲われそうになるシーンはその象徴)。
つまりマーサ・ジェーンは常に「生きやすい方法」を模索しているだけなんですね。それを異端と見る周囲の方がおかしいのです。
軍人を名乗る男に幌馬車隊の財産を奪われ、その共犯と疑われたマーサ・ジェーンは自分と自分の家族の名誉回復のため、犯人追跡の旅に。その過程で彼女は多くの人々に出会い、様々な体験をし、いつの世も変わらない社会の歪みを思い知ります。
さて、その波瀾万丈の冒険の顛末や如何に。それはぜひ、劇場でご堪能くださりませ。
前作「ロング・ウェイ・ノース」同様、冒険映画として出色の本作、めでたく公開となって嬉しい限り。これが一部のファンだけでなく、もっともっと幅広く、いろんな人の目に触れる事を願わずにいられません。
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