認知症をテーマに父と娘の絆を描く。本年度アカデミー作品賞ノミネート、主演のアンソニー・ホプキンスは「羊たちの沈黙」以来2度目の主演男優賞。ロンドンの独居老人81歳アンソニーの混濁した視覚と知覚を映像化、“認知症疑似体験”ができる作品と話題。戯曲の映画化で原作者のフロリアン・ゼレールが自らメガホン。
“ボケていること以外はまったく元気”なアンソニー。身体はしっかりと動き食欲も十分、聴覚だって衰えてないから他者のひそひそ話もしっかり聞こえてしまう。そこへ持ってきて誰よりも饒舌、ただその内容にはまったく脈絡がなく、娘アンやその周囲をしばし混乱に陥れ、ときには悲しみや怒りの感情を引き出してしまう。
”認知症疑似体験“は観る側にとってけっこうやっかいな冒険。時間軸も距離感も対人関係もまったく無視したまま場面は展開。ホラー現象ではもちろんないし、スッキリする謎ときが待っているわけでもない。まだらボケに付き合わされていると言ってしまえばそれまでだが、やがてはアンソニーの孤独感がじわりじわりと染み入ることに。
彼に振り回される周囲の葛藤に寄り添ううち、これは他人事ではないなあと。彼より10歳上のウチの父親、耳も遠く足腰も衰えたけど、おかげさまでボケにはまだまだ至らず、などとついつい比較。アンソニーが放つ脈絡のない一語一句に微妙に反応する娘アンの表情が印象的、これぞオリビア・コールマン屈指の名演技だと思いました。
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