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2020年11月18日20:23

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レガシーを守るのは・・・ ( 高山羽根子『首里の馬』を読む )

これは不覚・・・
読了して奥付けを見たら著者の高山さん、この度の芥川賞(第163回)を受賞されて、読んだのはその作品ではないか。
だったらどうして読んだのアナタ、って笑われそうだけど、数ヶ月前の産経新聞の書評を「斜め読み」してすぐさま図書館に予約したから(笑)

今回の芥川賞は、ほとんどチェックしてなければ、いつものように文藝春秋で読んでもいなかったからなのですが。

沖縄、首里の街で、年配の女性が独りで何の補助も受けずに運営する民俗資料館。
そのお手伝いを、まるで猫が他家に居付いたように高校生の頃からしている女性、未名子。
身寄りの居ない彼女が最近始めたアルバイトは、ウェブで外国人と対面して話し相手をするという怪しげな仕事。しかし実はその外国人たちはそれぞれに重い事情を抱えていた。
それをしながら資料館の収蔵物をひとつひとつスマホで記録し続けている。それはなぜか?

彼女の家の庭に、ある晩とつぜん謎の動物がうずくまっていた。
それは小さな馬だった。「宮古馬」という沖縄地方の品種で、かつての沖縄で盛んに行われていた競馬祭の花形だったが。しかしなぜ馬が・・・?

首里は、先の炎上事故があった城も、そして街も戦争で破壊し尽くされたのを再建した街。
それは喪われた記憶と記録が交錯する場だ。遺された資料を守る意義、しかしそれが復活しなければいい。という平和への微かな願い。
孤独な未名子のボランティアがとアルバイトが、あたかも何かの使徒のように見えてくる。
終盤、首里の雑踏の中、馬の背に乗って悠然と佇む未名子の姿が神々しい。

同じ受賞作である村田沙耶香の『コンビニ人間』、今村夏子の『むらさきのスカートの女』と同じく本作も日常の中の異なるものの拡張。意表を突くシュールな展開、というのは最近の常套手段のようだけど、高山さんのそれは切なく優しい読後感が心に響く。
受賞作にふさわしいとあらためて思う。

フォト
レビュー評価は★★★★

〈高山羽根子 プロフィール〉
1975年富山県生まれ。2009年「うどん キツネつきの」で第1回創元SF短編賞佳作、2016年「太陽の側の島」で第2回林芙美子文学賞を受賞。2020年「首里の馬」で第163回芥川龍之介賞を受賞。著書に『オブジェクタム』『居た場所』『カム・ギャザー・ラウンド・ピープル』『如何様』などがある。
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