箱バンの荷室には、血を流さない生首が山ほど積んである。
どれもが長髪であるのは、私の趣味嗜好によるものではない――あくまでそういう注文だから。
ケンチャン……ドウシテ……
切り離す前に女が言った言葉リフレイン頭痛が酷い運転すらままならない。車が揺れるたび、荷室の生首達がかさかさと音をたてる。いやひそひそ笑っているのかもしれない。匂い立つほど豊穣な黒髪を湛えているが、不自然なほど無臭だ。
毎夜毎夜毎夜、私が作り上げてきた生首、ハンドルを切ると、彼女たちのまぶたが一斉にこれでもかと全開になる。そして私の背中にへばりついた罪を凝視する。
「寂しくないだろう?それだけ友達がいれば」
昨日切り離した女に話しかける。
目的地に着いた。車を降り、後ろに回り、バックドアを跳ね上げる。生首を一つ鷲づかみにする。
「すいません。ネコネコマネキンです」
音が無い。
「すいませーん」
ケンチャン……ヤメテ……
男が出てくる。
「あぁ、どうもお世話様」
ぬっと生首を差し出す。男が受け取る。
私と男、そして女の頭部。
赤、青、白、赤、青、白――
傍らでアクリル筒に閉じ込められた色彩がもつれ合いながら回転している。
赤は動脈
青は静脈
白は包帯
赤は動脈
青は静脈
白は包帯
「そうだ来月までに3個お願いしていいかな?新人が入るんで」
「……何をですか?」
「これと同じのでいいよ。練習用のヘアマネキン」
「ああ、はい」
会釈し、車へ――生首たちの待つ車へ。
アタマガイタイ、アアタダタダアタマガイタイー
車を運転する私の頭部に熾烈痛が奔る。昨日切断した女の声が残響して、頭蓋骨を内側から叩き割ろうとしているからなのだ。
橋に差し掛かったところで、荷室から声がした。
「ねぇ、今日何食べたい?」
私はハンドルを切り損ね、ガードレールを突き破り、車は橋に乗り損ね、子供がぶん投げたミニカーみたいに土手をバウンドする。私はフロントガラスを突き破る。首筋に熱。焼けた針金を巻きつけられたような熱。ガラスの断面が食い込んでいる。必然私の頭部は切り離されて、川に落ちる。荷室から零れた無数の女頭に囲まれて、はっははハーレムのようだ――と、苦悶の表情を浮かべる。
たゆとう
たゆとう
たゆたゆとうたおう
流れながら
流されながら
ショートヘアーの生首が一つ、私のそばに流れてくる。それは昨夜まで最愛の人であった頭部、私と同じく断面からじんわりと赤い色彩を水に浮かべいる。砂粒を浜辺に隠す要領でマネキンに紛れさせておいたのだが、まぁこうなるわけだ。
「赤は動脈〜♪」
彼女が歌う。仕方がないから後を続ける。
「青は静脈〜♪」
そして二つの頭がハモるのです。
「白は包帯〜〜包帯〜〜誰か巻いてくださ〜〜い♪」
一拍子置いてぼそっと突っ込む。
「どこに巻くんだよ」
彼女が笑った。
殺したけど、やっぱり俺はこの女を愛している。
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