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2020年08月17日00:15

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募言箱

「(あ)と(い)が不足しておりますご協力お願いしまーす」

 街頭でボランティアが言葉を募っている。
「恵まれない人達のために言葉をお願いします」
「宜しくお願いします」
 女の子と目が合う。
「(あ)と(い)が不足しているんですよね」
「そうです」
 ポケットを探る。
「(あ)でよかったら」
 そういって募言箱に入れる。白い箱から「あ」という音がくぐもって聞こえる。
「ありがとうございます」
 屈託のない明るい笑顔、募言して良かったなぁと思う瞬間だ。
「他に不足している言葉はありませんか?」
 女の子は遠慮がちに言う。
「よかったら(こ)をお持ちじゃないですか?」
「(こ)ですか?何に使うんですか?」
「一人暮らしのお年寄りに毎日(こ)んにちはを届けているんです」
「なるほど」
「他にも(こ)んばんは、とか(こ)(こ)に住んで長いの?とか(こ)どもさんは?とか」
「なるほどね。使い道が多い言葉なんですねぇ」
 確かカバンの奥に――あった。
 箱に入れる。
「ありがとうございます」

 ぽと

 (こ)を出すときにシャツの襟のボタンにひっかかって(ヴ)が足もとに落ちた。

「あっ」
 女の子が驚く。
「どうしました?」
「すいません、(ヴ)をお持ちの方ってあまりいらっしゃらないので」
 私は(ヴ)を拾いながら話しかける。
「(ヴ)とか需要ないですよね?」
「いえ!もしよかったらぜひ募言してください」
「いいですよ、どうせめったに使わないし、でもどうするんです(ヴ)なんか?」
 女の子は再び明るい笑顔で。

「アフリカへ送るんです」
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