「(あ)と(い)が不足しておりますご協力お願いしまーす」
街頭でボランティアが言葉を募っている。
「恵まれない人達のために言葉をお願いします」
「宜しくお願いします」
女の子と目が合う。
「(あ)と(い)が不足しているんですよね」
「そうです」
ポケットを探る。
「(あ)でよかったら」
そういって募言箱に入れる。白い箱から「あ」という音がくぐもって聞こえる。
「ありがとうございます」
屈託のない明るい笑顔、募言して良かったなぁと思う瞬間だ。
「他に不足している言葉はありませんか?」
女の子は遠慮がちに言う。
「よかったら(こ)をお持ちじゃないですか?」
「(こ)ですか?何に使うんですか?」
「一人暮らしのお年寄りに毎日(こ)んにちはを届けているんです」
「なるほど」
「他にも(こ)んばんは、とか(こ)(こ)に住んで長いの?とか(こ)どもさんは?とか」
「なるほどね。使い道が多い言葉なんですねぇ」
確かカバンの奥に――あった。
箱に入れる。
「ありがとうございます」
ぽと
(こ)を出すときにシャツの襟のボタンにひっかかって(ヴ)が足もとに落ちた。
「あっ」
女の子が驚く。
「どうしました?」
「すいません、(ヴ)をお持ちの方ってあまりいらっしゃらないので」
私は(ヴ)を拾いながら話しかける。
「(ヴ)とか需要ないですよね?」
「いえ!もしよかったらぜひ募言してください」
「いいですよ、どうせめったに使わないし、でもどうするんです(ヴ)なんか?」
女の子は再び明るい笑顔で。
「アフリカへ送るんです」
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