昼休みが終わる。教室に入る。そして自分の席に着き、かばんから教科書を出す。
くすくす
誰だ?笑ってるのは?
くすくす
「あはははそっくりー」
「え?」
「ちょっと君、安田君そっくりーうけるー」
「は?何言ってんの?」
「うわーその言い方とか本人としか思えないーちょっと皆来てー」
クラスメイトが集まる。
「なになに?うわっすげー、こいつ安田にそっくりじゃん」
「何?ドッキリ?いたずら?」
「うわっ、その反応激似!あと、あごのラインとかも見てよーすごい似てない?」
「いい加減にしろよお前ら!俺は安田本人だっ!」
クラス一同顔を見合わせ、爆笑。
「似すぎじゃねぇ?まさか双子とか?」
「見た目もだけど、語尾がちょっと上がるところとか、喋り方もそっくりよね。ねぇねぇ家で練習とかしてるの?」
「誰だよ、こんないたずら考えたの?もういいから!笑えねぇよ」
再び爆笑。
「でたー!安田君の『笑えねぇよ』。やっぱ安田君のモノマネする時はそのセリフが定番だよね」
「ちょっと俺も真似してみよ。『笑えねぇよ』」
「うわ、似てねー。ちょっと君、もう一回こいつにお手本見せてやって」
「いや、まじで笑えねぇから、もう止めようぜ」
一瞬静まり返る。
「まるで安田本人みたい。親友の俺でも一瞬騙されそうになった」
「こんだけ似てるとなんか怖いよね、逆に」
「ちょっと安田呼んでこいよ、二人並んだとこ写メとろうぜ」
「あのなぁお前ら、悪ふざけは止めろ!俺が安田だっつってるだろ!」
ガラガラ
教室に先生が入ってくる。
「どうした?何集まってるんだお前たち?」
「せんせー、見てください、この人安田君にそっくりなんです」
「そんなことで集まってるのか?もう5時間目始まるぞ皆席に着け」
皆自分の席に着く。
「君?そこは安田の席だから、自分のクラスに戻りなさい」
「いや先生まで……俺安田です。安田卓也です」
「君、何組の生徒?」
「いや、だから――」
「悪ふざけはよしなさい。これ以上授業の邪魔をするんなら――」
先生はでっかい三角定規を振りかざす。
「うわー」
驚いて教室を飛び出す。
笑い声が漏れ聞こえる。
「先生、あの人安田君そっくりだったでしょ?」
「そうかぁ?全然似てなかったぞ。あれ?安田がいないな……まぁいい。授業を始めよう」
俺は窓から誰も座っていない自分の席を見て立ち尽くす。
そして、ガラスに映った顔のあごのラインを意識しながら自分の物まねの練習を始める。語尾をちょっと上げる感じで――
「笑えねぇよ。笑えねぇよ。」
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