mixiユーザー(id:44534045)

2020年07月18日09:55

34 view

異世界で俳句を詠む羽目になった僕はひたすら季語に戸惑っている

 ステータスを確認する。
『俳人』
 何度見返しても同じだ。吟遊詩人ではない。俳人。僕はこの世界で俳句を詠む職業らしい。

 力:3
 知力:4
 体力:2
 素早さ:2
 運:5

 何だか小学生の通知簿みたいだ。スキル欄を確認する。

 俳句 [level1] 次のレベルまで7543句

 レベル1なんだね。まぁ当然か。しかし次のレベルまで7543句ってマジですか?絶望しかない。

 見渡す限りの草原。秋吉台みたいに白い石灰石が所々剥き出しになっている。目の前を蜻蛉が飛ぶ。羽が無数にある。ナウシカで見たやつみたいだ。空にはうっすらと白い月が浮かんでいる。ん?あっちにも浮かんでる。数えたら全部で18個あった。
 どすん
 大きな音が鳴った。遠くで巨大なミミズが馬を絞め殺そうとしている。成る程、こういう世界観ね。

 で?俺にどんな俳句を詠めと?

「アナタ、冒険者?」
 女の子だ。鎧を着ている。
「ええ、まぁ」
「職業は?」
「なんか俳人みたいです」
「ハイジン?それって職業なの?意識はしっかりしてる?」
「いや、多分その廃人ではないです。俳句という詩歌を詠む職業みたいで」
「よく分からないけど吟遊詩人みたいなものよね?丁度良かった。私と組んで」
「え?いいんですか僕で」
「ええ。バフ役が欲しかったの。行くわよ」
 女の子に付いていく。女の子の足取りの先では、件の巨大ミミズがすっかり平らげた馬で腹を不自然に膨らませて蜷局を巻いている。
「私の馬を食べやがって、ぶっ殺してやる。さあ、バフを掛けて」
「バフ?」
「出来るんでしょ?今からアイツを倒すからステータスアップの効果を私に付与して」
「どうやって?」
「知らないわよ。でも何か詠うんでしょ」
「ああ、俳句ですか?」
「さっさとして」
 困ったぞ。俺、俳句なんてそもそも授業で仕方なく年に一回詠むくらいのものだし。
「早くして!アイツが潜っちゃう」
「はぁ、ではここで一句」

 ごほん

原っぱで
月がいっぱい
綺麗だな

「終わったの?」
「ええまあ」
「ステータス変わってないんだけど」
「え?そうなんですか?」
 視界に赤い文字、『季語がありません』
(嘘だろ?季語って)
 女の子は怪訝な顔で僕を見ている。
「あの聞いていいですか?」
「なに?」
「今何月ですか?」
「72月」
「72?ああ、そうなりますか。じゃあ季節は?」
「季節?今はゲスター祭りの後だから、『獅子王のさすらう魂』ね』
「獅子王の、え?何です?」
「さすらう魂」
「わかんないです。春ですか夏ですか?」
「ハル?ナツ?何それ?」
「ああ成る程、そういうんじゃあないわけですね」
 参った。
「ちょっとアナタ何かおかしいわね?本当に冒険者なの?」
 彼女の疑問符が膨れ上がった瞬間、地面からにょろりと何かが飛び出してきた。
「危ないっ!」
 
 叫んだが時既に遅し、彼女の足を触手が締め上げ、空高く担ぎ上げる。
「しまった!アイツの脚が地中に潜んでた」
 彼女を締め上げているのは巨大ミミズの脚?らしい。
「何とかして」
「いや、何とかって言われても」
「剣を取って」
 ミミズの側に彼女の剣が落ちている。
「そういうの僕無理なんで、俳句の方を頑張ってみます」
「早くして」
「ええと、あの、教えてください。今の時期特有の動物とか植物とか」
「コイツよ!モーグル。この季節になると地面から出てくるの」
「モーグル。分かりましたここで一句」

原っぱで
モーグル出てきて
怖かった

 彼女を見る。
「どうですか?今の?」
「剣を取って頂戴」
「いや、質問に答えてください。ステータス変わりましたか?」
「変わらないわよ。でも何かアナタの手、おかしいわよ」
「え?」
 両手がばちばちと光を帯びている。
「うわっ」
 思わず手を振るうと、光は刃となって飛んでゆき、ミミズを真っ二つにした。

 だけではなく、地面が裂けている。延々と遙か彼方まで。遙かの岩山が消し飛ぶ轟音。
どさりと彼女が地べたに落ちる音。
 ステータス欄を見る。

「次のレベルまであと7542句」
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する