植木鉢が置いてある、植わってるのは岩松。盆栽みたいな植物。頂き物、始末に困り、仕方なくベランダに追いやった。
毎朝、出勤前にガラス戸から半身を乗り出し、ペットボトルで水を注ぐ。すると乾ききってカールした葉が、しゅうしゅうと音を立て水分を吸収し、緑を増す。
「これで今日一日生きることができるな」
夏場は、枯れてるのじゃないかというほど乾ききっていることもある。でも水を注げば、見る間に復活。頼もしい。いや、羨ましい。
ペットボトルの残り水が陽の光を浴びて揺らぐ。その反射に照らされ、私の手、まるで樹皮、枯れてるのじゃないかというほど。
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出勤、地下鉄の階段、荒い呼吸に小さな咳を混じらせ、登る。書類の入った鞄、やたらと重く感じる。背後から勢いよく。
「おはようございます」
私を追い抜き、振り返った笑顔、地上から漏れくる陽光よりも明るく、こっちが本物の太陽なんじゃないかと錯覚してしまう。
「これで今日一日生きることができるな」
残りの階段を登る。
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