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2019年08月06日21:20

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ナタリー・シュトゥッツマン&オルフェオ55演奏会

7/5(金)のNHK-BS[クラシック倶楽部]で、「ナタリー・シュトゥッツマン & オルフェオ55演奏会」が放送された。

ナタリー・シュトゥッツマン(1965- )はフランスのコントラルト(アルト)歌手で、2008年からは指揮活動もしている。
2009年には「オルフェオ55」という古楽器室内管弦楽団を創設し、これを引き連れた演奏会も精力的に行っている。自ら指揮し且つ歌う、という珍しいスタイルである。
今回の放送はこの一連で、2018年5/15、東京・紀尾井ホールのライヴ収録である。

コントラルト歌手としては、ヴィヴァルディ,ヘンデル,バッハ等のバロックから、グノー,フォーレ,ドビュッシー,プーランク等の近現代のフランス歌曲、そしてマーラーも高い評価を受けるに至っている。

スウェーデンのピアニスト インゲル・ゼーデルグレンとの共演は定評があるが、マリス・ヤンソンス、サイモン・ラトル、クリストフ・エッシェンバッハ、大野和士等の指揮者とも共演をし、今、世界で最も注目を集める女性歌手の1人と言って間違いない。
更には、先に触れた通り、指揮者としての活動も始め、古楽器室内オーケストラ「オルフェオ55」だけでなく、単独に指揮者として招聘されるケースも増えてきた。
何と、2014年にはドニゼッティの《愛の妙薬》、2018年にはワーグナーのオペラ《タンホイザー》を指揮するに至った。

今回放送されたプログラムは以下の通り。

1)協奏曲第1番ヘ短調(ドゥランテ)より序奏ポコ・アンダンテ
2)歌劇《ポンペオ》(A・スカルラッティ)より〈私を傷つけないで〉
3)歌劇《ジュスティーノ》(ヴィヴァルディ)より〈この喜びをもって会おう〉
4)歌劇《アルミード》(リュリ)よりパッサカリア
5)歌劇《救われたアンドロメダ》(ヴィヴァルディ)より〈太陽はしばしば〉
6)オラトリオ《敵の将軍ホロフェルネスに勝って帰るユーディット》(同)より〈気まぐれの風にもてあそばれ〉
7)歌劇《みやびなインドの国々》(ラモー)より〈未開人の踊り〉
8)パッサカリア第15番(ファルコニエーリ)
9)《踊れ、優しい乙女よ》(ドゥランテ)

アンコール
1)《愛の喜び》(マルティーニ)
2)歌劇《オリンピアーデ》(ヴィヴァルディ)より〈私は苦しみながらも震えている〉

1)と8)は指揮のみ、他の曲は歌い且つ指揮をした。
当然ながら、指揮をする時はオーケストラメンバーの方を向いて、歌う時は客席の方に向き直って歌う。譜面台も自ら持って一緒に向きを変えなければならない。
ヴァイオリンやピアノの場合は、指揮しつつ演奏もするという形態が古くからあったが、歌と指揮を一緒にこなすという例は知らない。
人からは無理だと言われた事もあったらしいが、シュトゥッツマンは信念をもって推し通してきた。
歌う時は相当のエネルギーを集中する必要があって、指揮にかける力は減ずるのは確かだ。そのため、練習はみっちり行い、演奏に対する指示はそこで充分に理解してもらう、そう彼女はインタビューで答えていた。

それに「オルフェオ55」は室内オーケストラであるから、ロマン主義時代から次第に膨らんていったそれとは違う。ヴァイオリン1st & 2ndで7人、ヴィオラ2、チェロ2、コントラバス1、これが弦楽器群で、それにプラスして、チェンバロ(場合によりオルガン)、テオルボ(大型リュート)というのが基本。曲によってファゴット等が加わるという規模だ。今回の演奏会メンバーは、シュトゥッツマン抜きでマックス15人。
アイコンタクトでもかなりのコミュニケーションはできるだろう。

ヴァイオリンは左手と首で支持、弓は釣り竿形。モダンタイプの反った棹を使っている人はいない。
持ち方はアンダーハンドでなく掌を内側に向けるモダンスタイル。
チェロはエンドピンなし、膝の内側で支持しているが、ヴィオラ・ダ・ガンバではない。
時代設定は、ルネサンス迄は遡らない、言ってみれば古過ぎない古楽器オーケストラ、と言ったところか?
正確にはどう表現したらいいのか分からない。弦も何を使っているか、TV画面では分からない。

しかし、学術的な事は表面に出さず、シュトゥッツマンも演奏者達も、皆本当に音楽を愉しんでいる。活き活きとして、表情は極めて豊か。にこやかに笑みながら、時には激しい心の叫び、ダイナミックで生々しく、カサカサに乾いた古楽という感じはない。
元は1曲1曲は無関係な曲だが、見事に配列され、全部が大きな一連の組曲で、その間の感情の様々な起伏を表現しているかのように愉しめた。

2)の歌劇《ポンペオ》からのアリアでは、途中にヴィオラのカデンツァがセットされているが、そのメロディー、あれよく聞く曲だなと思ったら、《大きな栗の木の下で》をモチーフに使っていた。
元々イギリスの民謡だから、ここに挟まれても奇妙な感じはしない。
でも、ヴィオラのおじさんも、隣のチェロの女性も、顔を会わせニコニコして演奏していた。

ラストの9)《踊れ、優しい乙女よ》は、タイトルの通りダンス曲で、実にノリがいい。テオルボは響板を手で叩き、打楽器役をする。そして、だんだん激しくなり、高揚の頂点で終わる。
客達も大いに愉しめたようで大きな拍手になった。

アンコールの1)、 マルティーニの《愛の喜び》は、実はエルヴィス・プレスリーが歌って大ヒットさせた《好きにならずにいられない》の原曲だ。
…But I can’t help falling in love with you…

ジャン・ポール・マルティーニはドイツ生まれのフランスの作曲家で1741年に生れ、1816年に没した。モーツァルトの少し前の作曲家だ。
原曲の歌詞は、「愛の喜びはつかの間のものだが、愛の悲しみは一生続く」と、不実な恋人シルヴィアを愚痴る。勿論フランス語だ。
シュトゥッツマンは、持ち前の豊かなアルトの声で、にこやかに、アドリヴを効かし、装飾音を入れ、静かに囁くように歌った。

番組は1時間弱だったが、実は演奏会はこれが後半のプログラムで、休憩前の前半ではやはり8曲程のバロック時代の曲が組まれていた。
前半も是非聴きたいものだった。
 
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