永遠という概念の実在する可能性に想いを馳せる。
夜明け前の港、缶コーヒーの空き缶にタバコの灰を落とす。足元、コンクリの上にイカスミのあとがのたくっている。ほの苦い溜め息、かろうじて白を留め、寒暗とした大気にさっ溶け透明になる。この陳腐なハードボイルド状況を客観視し、ふいに込み上げる笑みをくっと噛み殺しながら思う。
永遠は実在するのだろうか?
この世界に於いては、概念としては存在していても実在はしないのではあるまいか。
沖に灯りが走る。小さめの漁船か何かだろう。音のない波を裂きながら、トツトツとエンジン音をここまで届ける。
いや、永遠は実在する。
きっと存在する。
少なくともそれを信じ、望むる人がいるならは、その人の数だけは、永遠は永遠として実在するのだ。
人の想いの一種なのだろう。
思えば僕の永遠は、殆ど彼女がくれたもの。それは他愛もない与太話の後の笑顔や、手が触れた時の熱の感じ方や、人気ラーメン店のテーブル上で交差した視線のラグランジュポイントや、セックスで共に果てる瞬間。テーブルに涙が落ちた瞬間。
そうか、瞬間なのだ。永遠は一瞬なのだ。有限であることを自認している筈の我らが、ついうっかりと身の丈を忘れ、永続することを切望してしまうほどの瞬間。それこそが永遠なのではあるまいか?
空の色が変わる。有史以来の赤を得た夜明け、青とぶつかり合いながら海と空を目まぐるしい色彩の氾濫でエフェクトしてゆく。風が変わった。さっきまで無味だったのに、磯の生命臭を漂わせ始めた。じりじりとタバコの先に燻る火が日の出にほんの少し加勢する。
永遠は遍在している。
今この瞬間も永遠。
文字となった僕の心があなたの目に触れている今も、ささやかながら永遠。
嘘偽り無く僕は、あなたの永遠にも触れてみたいと願っている。
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