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2019年05月09日20:52

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静かに夢を乞う ( 映画『希望の灯り』)

そうか!しまった・・・、この映画の原作になる短編集『夜と灯りと』は9年前に読んだことがあったのにすっかり忘れてしまっていた。なんという不覚。
作者クレメンス・マイヤーが旧東ドイツ出身であり、この映画でわかる通り、東西統一後の「東独側」が主な物語の舞台になっているのにもっと着目すべきだった。
読んだ当初はあまり入り込めなかった。薄暗い哀感と、文章が硬い感じだったからか。(当時の読書日記を見ても、ほとんど好意的な感想が書かれていないし。笑)

ライプツィヒ近郊の田舎町に建つ巨大スーパー。そこの在庫管理係として新たに配属されたのはクリスティアンという青年。
彼はとても無口で、仕事着の襟や袖首から覗く刺青の跡から察するに、何やら後ろ暗い過去がある男のように見える。
無口なのは悔悟の表れか、自分を恥じているのか。しかしそんな彼を、面倒見のいい先輩ブルーノや気のいい従業員たちは静かに受け入れる。
仕事にも慣れてきたクリスティアンは、いつしか女性従業員のマリオンに惹かれるが・・・

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ブルーノはじめ、スーパーの従業員達に何気なく感じられるのは、微妙な距離を保ちながらも、肩を寄せ合うような連帯感。
これは観る側の憶測なのだけど、統一という希望から取り残された東独人の痛み、沈滞感を共有しているのがそこに伺えるような気がする。
クリスティアンのように道を踏み外した者もいるし、ブルーノのように愛着のある本業から離れざるを得なくなり、不本意な身過ぎ世過ぎを送る人もいる。

しかしこの映画は、統一後の格差やオスタルジー(東独時代を懐かしむ風潮)をことさらに訴えない。俺たちが負け組かなんてどうでもいいんだ、日々を真っ直ぐに生きていけば、ささやかな幸せもきっとある。という控えめな希望と優しさに溢れた余韻が素晴らしい。
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フォークリフトの存在感も見逃せない。

フォト【予告編】https://youtu.be/oFtmnWuvdcI

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クリスティアン役のフランツ・ロゴフスキが『未来を乗り越えた男』、マリオン役のサンドラ・ヒュラーが『ありがとう、トニ・エルドマン』でそれぞれ好演した者同士だけに嬉しいキャスティングでもありました。

彼らの夢の象徴が南の海、というのがドイツ人らしいと思った。
彼らにとっての海は北海かバルト海だから、なおのこと南国に憧れるのだろう。実際、ギリシャやマヨルカ、イビザ島は定番ツアー地としてドイツ人だらけらしいし(笑)

バッハやシュトラウスがBGMに用いられるセンスも良かったけど、それ以上に印象的なのは数曲用いられたサン・ハウスだ。場違いなようで、実はその「ブルース」な哀感が場面を代弁しているような気もした。
「Grinnin’ in Your Face」
https://youtu.be/Mlt76tCrDdg


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