この間の休日、奇作の誉れ高い「まぼろしの市街戦」を観てきました。
第1次大戦末期、撤退中のドイツ軍によって強力な時限爆弾が仕掛けられた街がありました。パニックになった住民たちは街を捨てて逃走。取り残された精神病院の患者たちは大喜びで街中へ繰り出し、自分たちの王国を作ります。そこへやって来たスコットランド兵のチャールズはこの奇妙な王国の王様に祭り上げられて・・・。
本当にマトモなのは誰か? 本当に狂っているのは誰か? 観ているうちに正常と異常の境界がわからなくなっていく、ブラックでファンタジックな反戦コメディであります。
爆弾のありかもわからず時限装置の解除もできないチャールズはせめて、この不思議な王国の住人の命だけでも救おうと、彼らに街を出るよう命じます。
しかし、彼らは応じません。なぜなら「外界は邪悪」だから。
血と硝煙で満たされた世界の恐ろしさを、患者たちは特殊なアンテナのようなもので感じ取っていたのでしょうか。
ラスト近く、ドイツ軍とイギリス軍が世にも愚劣な殺し合いを演じて全滅するのを目の当たりにした患者たちは、まるで狐が落ちたかのように病院へ戻っていきます。それまで身につけていた派手で滑稽な衣装を脱ぎ捨てて。
もしかしたら彼らは、汚泥に満ちた現実世界との関わりから積極的に逃避しようとしていただけなのかも知れません。
心を病んだフリをして、諍いや憎悪から遠く離れた世界で平穏な日々を送りたかっただけなのかも知れません。
他民族を蔑み、自ら進んで相手を憎もうと必死になっている連中が跋扈している現在、この作品は製作当時よりも大きな意義をもって迎えられるべきではないかという気がしますね。
人間たるもの、間違っても、他者の流す血に悦びを見出す本物の「キ◯ガイ」などになってはならないのです。
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