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2018年09月08日13:57

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☆洋ちゃんの読観聴 No. 1294

☆洋ちゃんの読観聴 No. 1294                

イアン・マグワイヤ 「北氷洋」               

これはジャンルとしては海洋小説、冒険小説の類。
時代は19世紀半ば、舞台はタイトルの通り北氷洋だ。
捕鯨船の男たちの物語。

主人公はアイルランド人の若い医者、サムナー。 
インドの内戦で辛い経験を持ちトラウマがある。
その際の理由ありという事情もあり、労賃の安い
捕鯨船に乗り込みこととなる。

この船のクルーは曲者揃い。腕はいいが凶暴な銛
打ちのドラックス、一等航海士のキャヴェンディッシュ、
二等航海士のブラック、敬虔なキリスト教信者の
オットー、船長のブラウンリー、船には乗り込まないが、
計算高い船の船主のバクスターら。

全体の4分の1あたりでサムナーのインドでの軍医の
体験が語られるが、これだけでも迫力があり描写も
リアルだ。戦闘、かつぎこまれた戦士たち、そして
戦場における現地の人たち。サムナーが出くわす
少年も印象深い。

港を出発し北氷洋の奥深くに進む捕鯨船。最初は
航海も順調で、アザラシなど収穫もあった。だが、
次第に氷が厚く高くなってくる。思いように鯨に
出くわさない。

実は、船主と船長には陰謀があった。わざと船を
難破させ、多額の保険を得て山分けしようという
のだ。だが、この企ては捕鯨船の人間たちには
伝えられていない。

やがて、船の中で事件が起こる。給仕係りの少年が
レイプされ、その後殺害される。いったい誰が・・・。

厳しい北の海の様子の描写がすごい。また、主人公が
出会う白熊がいい。「白鯨」の鯨とは違う味わいがある。

エンタメ小説ではあるが、少しばかり純文学的な
要素もある。人の生き方と社会との関係なのだが、
ワルのドラックスは語る「おれが自分の好き放題
やってるように先生だって好き放題やってるんだ。
自分の好みに合うことは受け入れて、合わないことは
撥ね付ける。法律ってやつはよ、先生、結局、ある
特定の人間の好みをまとめあげたものだろうが」。

僕はこの部分を読んで、今の時代の人々の生きかた
との類似性を感じた。

いずれにせよ、骨太の作品だ。今年僕が読んだ
小説の中で屈指の作品である。

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