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2018年04月27日21:45

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ああ無情 ( 映画『ラブレス- LOVELESS–』)

これは、ずしっと心に響く映画です。素晴らしい。今年の上半期の洋画ベストスリーに入れたいくらいの問題作。

この映画の監督、アンドレイ・ズビャギンツェフは今年で54歳。
2004年に公開され、ただならないインパクトを与えられた『父、帰る』以来、彼は家族の愛憎、そこに澱が滲み込むようなロシア社会の影の部分を、強固な映像と文学的な深遠さで描き続けてきた。

そしてこの新作。その、それまで以上に解りやすい痛切さ、現代社会に対する批評が更に研ぎ澄まされている感がある。
そこに登場するのはタイトルのごとく、救いがたき「愛なき家族」の姿。
愛が失われた家族。それは見ず知らずの他人以上に虚しく寒々しい。

2012年頃のモスクワ。一流企業で働くボリスと美容サロンを経営するジェーニャの夫婦。ふたりは離婚協議中で、家族で住んでいるマンションも売りに出そうとしている。言い争いのたえないふたりは、12歳の息子、アレクセイをどちらが引き取るのかで、激しい口論をしていた。アレクセイは耳をふさぎながら、両親が喧嘩する声を聞いている。
ボリスにはすでに妊娠中の若い恋人がいる。ジェーニャにも、成人して留学中の娘を持つ、年上で裕福な恋人がいる。
そしてある日、両親がデートで家を留守にするなか、息子が通う学校からアレクセイが2日間も登校していないという連絡が入る・・・

ふたりは失敗した結婚を過去のものにして新生活へとリセットしたい。そして子供を「過去の負の遺産」扱いしているのである。今のロシア社会の水準で言えば、恵まれた暮らしぶりというのに、なんというエゴ。身勝手さ。
そのくせふたりとも性欲だけは旺盛(笑) その場面もたっぷり見せつけられるから、愛とは何かを履き違えてないか?という痛烈な問いかけが余計にそこに込められているような気もする。
アレクセイの「蒸発」は、そんな「ふしだらな」ふたりにくだされた罰ではないだろうか。
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失ったものの大きさに今さら愕然として、必死にアレクセイを探すふたり。怠惰な警察は真面目に取り合ってくれない。そこでふたりは失踪者を探す市民ボランティアに依頼する。
自分がこの映画を観ていちばん驚かされた場面はそこだった。何十人という老若男女のボランティア達が誠実で統率力のあるリーダーの下、アレクセイの行方を慎重に検討しながら整然と捜索する姿には感動すら覚えた。
自分は最初、彼らは探偵社みたいなもので、だいぶお金を費やしているのかな?と思うくらいに組織だっている。実際彼らは本当に存在するのを知って更に驚きだ。
愛なきふたりの申し子を、懸命に探す無償の愛。グレーが強調されたような寒々しくも鮮やかな映像もあって、これもまた強烈な対比を観せつけられるのです。

愛されない子ども。ということで言えば、去年の夏に観た『ゴンドラ』を思い出さずにいられない。あの映画に登場する少女「かがり」は、心を石のように頑なにすることによって自分を守ろうとし、やがては救われるが、彼女より少し上のアレクセイは成すすべが無い。

この物語の行方は果たしてどうなるかは言えないけれど、ひょっとするとアレクセイは、こんな酷薄な現実とおさらばして、違う世界に去ったのかもしれない。ボリスとジャーニャに癒やし難い疵を残して。
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罪と罰、そして戒め。ズビャギンツェフの映画としては今までになく教訓めいていて、そしてあらゆる世界に通じる寓話のようにも思えてくるのです。

フォト【予告編】https://youtu.be/PEzM9-UGTkk

〈 梅田ブルク7、シネマート心斎橋で公開中 〉

『裁かれるは善人のみ』
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『ゴンドラ』
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