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2018年04月23日13:19

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友情と使命 (『映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』)

物語の背景にある「光州事件」。1980年5月18日。民主化を求める大規模なデモが韓国南西部の全羅南道の町である光州で起こり、政府はそれを武力で鎮圧。その凄まじい弾圧は、韓国現代史における恥部と言われている。
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自分がこの事件を知ったのは、同じ頃、新聞でその様子が報ぜられたから。その新聞は日本の朝刊紙か、在日コリアン向けのハングル語新聞かどうかちょっと思い出せない。たぶん後者だったと思う。文面よりも強烈に脳裏に刻みつけられたのは、迷彩服姿の兵士がデモをしていたであろう若者の襟を掴んで棍棒で殴りかかろうとしている写真だった。子供心にとてもショックだったのを今でもよく憶えています。海を隔てた日本の隣でこんなことが起こっているなんて・・・と。
ネットで検索してみれば・・・、あった。たぶんこれだ。。。
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だから10年前に、この事件を基にした映画『光州5・18』が公開された時はずいぶん期待したものですが、アン・ソンギやイ・ジュンギなど名だたる俳優が出演しているのにもかかわらず、メロドラマみたいなストーリーになっていてずいぶん落胆。

そして本作。結論から言うとまさに力作! あらゆる意味において、なんの上滑りもぜずに、ワイドレシオのギアがぐんぐんと回るような力強さです。

ドイツ人記者のピーター(トーマス・クレッチマン)。日本に長く滞在していた彼は「韓国でとんでもないことが起こっているが、戒厳令が敷かれ報道が規制されていて伝えられない。」という話を聞きつけ、単身現地を訪れての取材を試みる。
ただし道案内が必要なので、ソウルで雇い入れたタクシー運転手キム(ソン・ガンホ)とふたりで現場である光州に向かう。しかしそこには、ふたりの想像を絶する光景が待っていた。。。

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ソン・ガンホの、軽妙なバイタリティに溢れる存在感が素晴らしい。これが重いストーリーをテンポよく回転させている。韓国が誇る名優の面目躍如。
しかしその、軽々しさや図々しさの裏に見える人間味。これが彼のキャラクターを奥の深いものにしています(ひとり娘ちゃんとのいきさつなんて泣かせもするし)

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ピーター役にクレッチマンが起用されたのも嬉しい。自分は何本かの映画で彼のことをよく知っているだけに。いちばん印象深いのは、ヒトラー暗殺事件が題材の『ワルキューレ』か。自分は彼のことを「平成のマクシミリアン・シェル」と勝手に呼んでますが。(笑。同じように軍人役が多かった往年のドイツ人俳優)
そのほかの登場人物たちも、美男美女はほとんどいない。キムと親しくなる現地の運転手ファン演じるユ・ヘジンも、デモ学生演じるリュ・ジョンヨルいずれも、もっさりとした(笑)昔のコリアン顔。それがリアリティを醸し出している。
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このストーリーはれきとした事実を基にしたもので、ピーターも実在する記者。
フォト (ふたりの写真)
彼を乗せたタクシー運転手は今も見つからないそうだ。しかし、やはりそこは「韓流映画」。娯楽性を忘れない。コメディがあれば、ハラハラするような大小のスリルが幾つも埋め込まれている。終盤のクライマックスはさすがに力技が過ぎるけど、ぜんぜん興ざめた思いを抱かないのは、ストーリーの自体が力強いからだ。140分の尺の長さも納得してしまう。

なによりも、おそるべき事変が起こっているのも知らないふたりが、徐々にその状況を目の当たりにしていくオンタイム感。これが観る者に同じ目線に立たされるような緊張を与えられる。
政府による情報統制は現代に繋がる大きいメッセージだろう。実は『ペンタゴンペーパーズ』を思い出させる場面も登場する。
命がけで事件を記録し、残そうとするふたり。その『ペンタゴン〜』での「報道の使命は、報道すること。」という言葉がこの映画でも重く響されるのはなんという偶然だろうか。
じつは、主演のソン・ガンホ自身も当時は事件についてほとんど知らなかったそうだ。そもそもこの事件の全容が明らかになったのは後年になってのことなのだから。
自分が子供の頃に見て衝撃を受けたあの写真も、誰かが決死の覚悟で撮って残したのだろうか。

フォト【予告編】https://youtu.be/uDy9Bd08CH4






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