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2018年04月18日18:51

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我が最愛の敵 ( 前野"ウルド"浩太郎『バッタを倒しにアフリカへ』を読む)

いやあ〜面白い!2018年度の新書大賞を授かったのも納得です。

地球の裏側、はるかアフリカにあるサハラ砂漠に面した国「モーリタニア」へ、バッタの研究をするべく雄飛した若き昆虫学者の驚きと涙の体験記。

バッタの大量発生による災害。それは古来から世界のどこでも人類を悩ませてきた問題だった。
現在において最も被害を被っているのがアフリカ。駆除の手段は確立されてはいても、問題はどこで大量発生を予知し、後手にならずに「黄色信号」の時点で封じ込めるか?
それにはまず、バッタの世界を知らなければならない。敵を知ればナントカである。ところが、それはあまり研究されてきたことは無かった。それがまず意外。いったい世界の昆虫学会はどうして手を拱いていたのかが不思議だ。本書によると、ヨーロッパから何度も研究チームが派遣されてきたが、、研究方法が的外れだったり、大量発生に出くわさず空振りに終わったりして、成果を出せないままだったらしい。

それを、学会では無名の若手と言っていい前野氏が単身、敢然と挑む。それがユーモアたっぷりに活き活きと綴られていく。

帯にあるように、本書の読みどころは大別すれば3つ。
まず、全く行ったことの無いアフリカに滞在すること自体が大変なのだ。その、驚きとスリルに満ちた異文化体験は毎日が珍騒動(本人にとっては、であるが。笑)。それはあたかも高野秀行の辺境ノンフィクションを彷彿とさせる面白さ。

そして、ターゲットであるバッタ。および他の昆虫、それらが息づくサハラ砂漠の大自然。これまた本人の眼差しを借りて驚異の連続である。ナショジオ的、それとも「NHK 子ども科学電話相談」的とも言える知的興味を掻き立てられ通しだ。

後半における三番目。違う形で著者を襲う現実。それは博士号を取得した身でも、アフリカのバッタ研究員では収入も役職も得たことにはならない。日本において何がしかのポジションが無ければ「高学歴ワーキングプア」状態なのである。
このままではいけない!「日本のバッタ学者アフリカに在り!」と、日本国内に向けてパブリッシング/求職活動すべく奔走する著者の姿の涙ぐましいこと。果たして著者の努力は身を結ぶのか?

そのプロモーション写真?(笑)
フォト


研究者にとってフィールドワークがどれほど重要か。著者がこの世界に入るきっかけとなったファーブルに対する憧憬など、注目させられる件は他にもあるのだけど、何よりおかしな気持ちにさせられるのは、バッタを退治する立場でありながら、いつしか不思議な親しみを抱いてしまっているという、あまりに可笑しく皮肉な矛盾。
なんと不思議なライバル関係。しかしそれってヒーローものの漫画/ドラマでよくある図式じゃないか、と思ったりするのだけど(笑)
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読み終えて、前野氏のこれからの発展を願わずにはいられなくなった。
ちなみにミドルネームの「ウルド」は、モーリタニアで「誰それの子孫」という尊称。しかし今は廃止されてるとか。

評価は★★★★★

バッタの群れに身を投げ出しての、とある「人体実験」(笑)
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