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2018年04月07日18:10

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高畑勲さんを悼んで ( 映画『太陽の王子 ホルスの大冒険』)

火垂るの墓 高畑勲監督が死去
http://news.mixi.jp/view_news.pl?media_id=2&from=diary&id=5059135

高畑さんが手がけた作品は良作名作だらけで、おそらく皆様それぞれに思いの深い作品は多いでしょう。自分も子供のころから、どれだけ彼の作品に親しんだことか。

この作品が実は彼の長編デビュー作なのを訃報をきっかけに調べて、迂闊ながらあらためて知ったのです。
自分がアニメに夢中になっていた80年代初頭、既に『ホルス』は専門誌や同人誌で「日本アニメ史上に残る傑作」として大きく再評価されていた。
それ以前にテレビで何度か放映されていて、自分もそれを観て魅了されただけに、やっぱり自分にとっての高畑作品はこれを挙げたい。

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〈 あらすじ 〉
海辺に父と二人で住むホルスは、岩男のモーグの肩に刺さっていた二本の剣を手に入れた。
その剣は太陽の剣と呼ばれる名剣で、その剣を鍛え上げ、使いこなせるようになった時、ホルスは太陽の王子と呼ぼう、とモーグは言う。
父を失ったホルスは、一切合切を焼くと、父の遺言に従い人々のいる北の村に向かって舟出した 。再びこの地に帰ることはない。
途中ホルスは悪魔グルンワルドに弟になれと誘われるが断って、崖から落とされてしまう。ホルスは 倒れたまま流氷にのって村に流れ着いた。
ホルスは村の一員として受入れられるかに思えたが、グルンワルドのたくらみで村に送り込まれた一人の少女ヒルダのために、村人達の不信を買い、とうとう村を追い出されてしまう。
果たして、悪魔が村を滅亡させるのか?それともホルスと村人が勝つのか?ヒルダの運命は・・・?
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公開されたのは昭和43年(1968年)。もちろんこの時期の映画は単発上映されていない頃。ましてやアニメは、オリジナル作品と言えど夏休み/冬休みの子供向けプログラムのひとつとして上映されるのが当たり前。対象年齢ももちろん低い。『ホルス』もうそうだった。(「東映チャンピオン祭り」)

しかし、『ホルス』が傑出していたのは、アイヌや北欧風の伝承ファンタジーというイメージを借りて、善と悪、団結と連帯という極めて深いメッセージを盛り込んでいるところなのです。
当時としてはそれは先鋭的な試みだったのではないか。それもそのはずで、原作/脚本の深沢一夫はプロレタリア系の演劇作家。そして高畑氏はじめ、スタッフのひとりだった宮崎駿も左翼/反戦運動にコミットしていた頃。東映の労働争議にも宮崎氏が高畑氏を焚きつけたと聞いたことがある(笑)
ヒルダが悪魔の手先となって村人達の不信を煽り、分裂を目論むところなどなどは、抗議/反対運動などでよくあることを反映させているし、劇中に幾度か流れる合唱BGMもプロレタリアソング風に思えてならない。時代の空気がそこに込められていた。

そのヒルダの、妖しい美しさに満ちた複雑なキャラクター。実は彼女の存在感こそがこの映画の魅力をほとんど担っていると言っていい。
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彼女は悪魔によって滅ぼされた村人の生き残りで、悪魔の妹分になるのと引き換えに永遠の命を得た。しかしホルスとの出会い(と恋?)が彼女の善なる心を呼び覚まし、葛藤に苦しむ。
そう・・・これって『スターウォーズ』のダースベイダーと全く同じ!
後半のそれとホルスとの絡み、その重く、幻想的な心理描写は今観ても驚くほどに斬新。とても子供向けの「まんが映画」とは思えない。絵柄が素朴であどけないタッチだけに、余計にそのギャップが際立っている。

ただ、この映画が高畑作品での最高傑作とは、惜しいかな言い難いものがある。
何よりも、この壮大な世界観が物語に収まりきれていない。未消化なところも感じる。自分も7年前にDVDを買って数十年振りに観た時は正直言って「ちょっと詰め込んでるなぁ・・・」と思ったものです。無理もない。この映画はたった82分(!)の尺しかないのだから。
あるいは製作が公開まで間に合わなかったのか、アクションシーンの幾つかが静止画になっていたりする。

それでも本作、高畑氏にとっては意欲に溢れる、とても大きな習作であり、場面/美術設定を担当した宮崎駿にとってもこれが原点と言っていい。2人が後に作り出す作品、例えば『未来少年コナン』やジブリ作品に通じるところがそこらじゅうにある。ついでに言えば、作画監督である大塚康生氏の存在も抜きにできない。やっぱりこの3人が思う存分作れるのは『ルパン3世』からかな、と思うけど。
総作画枚数15万枚というのも当時としては空前の規模だった。『ナウシカ』が5万枚。『もののけ姫』が14万枚だから、そのとてつもなさがわかるでしょう。当時の映画界はアニメも実写も予算オーバーが当たり前の「最後のいい時代」だったのが伺えたりもする。

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【予告編】http://youtu.be/8ZX5NosrYl8

ヒルダ役は市原悦子。悪魔役が平幹二朗、モーグが横内正、ホルスの理解者である村の頑固爺さん役が東野英治郎というキャストも豪華だ。ホルス役の大方斐紗子はしばらく名前を見ないな、と思っていたら、7年前の『恋の罪』(監督が園子温)でえげつないお婆さん役で出ていてびっくりしたものですが。

この作品を送り出して、ちょうど50年後に高畑さんは逝ってしまった。なんという悲しい節目だろうか。その功績に敬意を表し、故人の冥福をあらためて祈らずにはいられません。

高畑さん、ありがとう。そしてさようなら。








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