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2018年01月14日13:53

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王様のいちばん長い三日間 ( 映画『ヒトラーに屈しなかった国王』)

まさに、ノルウェー映画界渾身の一作と言っていいでしょう。2時間越えという尺も納得だ。そもそもタイトル通り主人公が王様で、彼も国も瀬戸際に立たされる危機を正面切って描いているのだから。

1940年4月9日、ナチス・ドイツ軍がノルウェーの首都オスロに侵攻。ドイツ軍の攻撃に交戦するノルウェー軍だったが、圧倒的な軍事力によって、主要な都市は相次いで占領される。降伏を求めてくるドイツ軍に対しノルウェー政府はそれを拒否し、ノルウェー国王のホーコン7世は、政府閣僚とともにオスロを離れる。一方、ヒトラーの命を受けたドイツ公使は、ノルウェー政府に国王との謁見の場を設けるように、最後通告をつきつける。翌日、ドイツ公使と対峙した国王は、ナチスに従うか、国を離れて抵抗を続けるか、家族のため、国民のため、国の運命を左右する究極の選択を迫られる。ノルウェーにとって、歴史に残る重大な決断を下した国王ホーコン7世の運命の3日間を描く。( 作品HPより )
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恥ずかしながら、この映画で初めて知ったのですが、ノルウェーは20世紀初めにスウェーデンとの同君連合を解消して実質的に独立を果たし、もうひとつの隣国デンマークから迎え入れられたのがホーコン国王だった。しかもその是非は国民投票によってだった。
従って彼は国民によって選ばれた王様なのですね。だから彼もその民意を重んじていた。それは何よりも「新任者」としての重圧であり弱み。映画での国王の謙虚さにそれがよく現れている。
一方皇太子は逆に血気盛ん。内閣に対しても強い意志表示をするし、王室の権威を重からしめる気持ちも強い。そして彼の母親、すなわち皇后に対してわだかまりがあるみたいだ。それやこれやで父王としばしば対立する。

やんごとない方であるのにもかかわらず、ずいぶん踏み込んで描かれているもんだなと感嘆もする。加えてこの映画のほとんどは手持ちカメラによる撮影。登場人物達に接近するだけでなく、かなりグラついた映像はまるでドキュメンタリーのよう。エピソードを区切るように3日間の経過を表記しているのも然り。
歴史的な事件を基にした映画は多いですが、これはかなり骨太だ。それが逆に作り手の心意気であるのをひしひしと感じさせられます。

何よりもこの映画を奥深いものにしているのは、駐オスロのドイツ公使であるブロイアーの存在が大きいことだ。戦争による無用の流血を避けるべく本国と国王の間を取り持とうと奔走する姿が涙ぐましくもあり、板挟みにされる立場の苦しさが伝わってくる。しかし、もはや事が起こってしまっては、どれだけ誠実で有能な外交官でもただの使い走りになってしまうのだ。戦争はなんと非情なものなのか。
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更に、意外に政治的な見どころも大きい。即ち「立憲君主制」とはどうあるべきか?王様は、国政にクチバシを入れるのは控えるべき象徴たる立場。しかし未曾有の国難に見舞われ、自身が意思を示す、決断しなくてはいけない時がある。それがどこまで許されるか?筋なのか? 昭和天皇も二度その時があった。だからこの映画の英題『The Kings Choice』はシンプルであっても重みの込もったいいタイトルだと思った。
いっぽう邦題は・・・、もう「ヒトラー」の名前を持ち出しているのも見飽きたなあ(笑) いちおう声だけ登場しますけどね。

フォト【予告編】https://youtu.be/Rax75N6S_Rg
フォト実際のホーコン国王
〈 テアトル梅田で公開中 〉

おまけとして、ミリヲタ的な見どころをいくつか。
映画の冒頭、開戦劈頭でオスロ湾の要塞が機先を制して攻撃し、見事に撃沈したのはドイツの巡洋艦「ブリュッヒャー」
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就役して初出撃した矢先だった。不運な船だったのですね。艦名はワーテルローの闘いのプロシア軍司令官。
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この攻撃を指揮した隊長が戦後に最高位の勲章を贈られたのはこの映画で知った。
要塞も残っている。実際にロケもしたようだ。

オスロを逃れた国王と政府を追撃したのは、ドイツ軍のパラシュート部隊。ノルウェー攻撃に多数が投入された。独特の小さなヘルメット、軍服、階級章などの軍装ディテールを手抜かりなく再現。ドイツ公使館で国旗掲揚する時も彼らの姿が。
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その追撃部隊を阻止するノルウェー軍部隊。セーベルという少年兵が印象深く登場しますが、彼らが被る軍帽の前部に房飾りが付いているのに注目。こういうデザインはスペインだけかと思っていたら、この国もそうだったのかと新たに知った次第。
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