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2017年09月29日01:04

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かきかけ

 中腰になって震えているゼゥにコギト、「テスカを診てやれ」椅子から立ち上がり、「ヴィー、後悔させてやる」顔面の刺青に電流を走らせ、ヴィーが嗤った。
 騒動を聞きつけ、集まっていたギャラリー、この頃には人だかりと呼べるまでに増えていた。ヴィーが、ホログラフィーの庭を指さすと滝は消え、変わりに向かい合わせの椅子が現れた。「座れ。勝負は99(ナインティナイン)で行う」ギャラリーから歓声があがる。
 「99、今更ルールの説明は不要だと思うが、二人でマトリクスに潜り、リバーシ(オセロ)で勝負をする。盤の数は99、つまり99の対戦を同時に行うという訳だ。制限時間は3分、3分経った時点で駒の多い方が勝ちだ。いいな?」コギト頷きながら椅子に座る。「せっかくのギャラリーだ。見易くしてやろう」椅子の周りにホログラフィーの盤が99個、浮かび上がる。「テスカの負債5486、俺が負ければこいつを放棄してやる。ただしオマエが負けたら、同額の負債を負ってもらう」コギト頷く。糸引く唇押し開け刺青が、笑う。「目障りなんだよテメェ」顔を近づけ、「片眼にしか、デバイス入れてねぇくせにハネてんじゃねぇ」コギト顔色変えることなく、「午後の作業が始まる。早く始めよう」ヴィー顰めっ面を引き下げながら、「舐めた態度も今のうちだけだ。テメェのデバイスをニューロン(神経細胞)ごとオーバーロードさせてやる」言い終わらぬうち、合図もなく盤の上に黒い駒がひとつ置かれた。「始めるぜ」虚空に02:59の文字、ヴィーが仕掛けた。コギトもマトリクスに潜る。ホログラフィの盤に目まぐるしく白黒の駒が入り乱れ、各所で黒が白へ、白が黒へとリバーシ特有の二転三転の攻防。コギト、ヴィー、どちらも椅子に深く腰掛け、マトリクスに没頭しきっている。網膜ディスプレイに演算式が流れる。コギトの右眼、ヴィーの両眼に。
 「テスカ、大丈夫か?」ゼゥが声を掛ける。「アイツ、思いっきり殴りやがった」毒突きながら立ち上がるテスカの様子を見て、ひとまず安心するゼゥ「は、始まっちまったぜ99が」「どっちが優位?」「わ、分からねぇ。ホログラフィが出てるけど、見ても全然分かんねぇ」テスカ、腫れてきた右眼を震える手で押さえながら、左眼を大きく開き、「コギトが優位ね」「そうか?アニキの駒の方が少なく見えるけど」「でも半数以上の盤で角にリーチを掛けてる」「じゃ、じゃあ?」「タイムリミットギリギリでひっくり返す気よ」そこで異変が起こった。
 「逆転は、ねぇ」死人のようにぐったりと椅子に座り、マトリクスに没頭しているはずのヴィーの方から声がした。嬌声をあげ勝負を囃し立てていた子供たちが、一斉に静る。「アイツ今、喋らなかった?」「お、俺にも聞こえた」「テスカ、何を驚いている」ヴィーが椅子から立ち上がる。幽霊でも観るかのように、子供たちは後退る。「何で、あり得ない。マトリクスに潜ってるのに」盤上、駒は動いている。ヴィーの全身に彫り込まれた刺青に、バチバチと電流が走る。テスカが眼を見開く、刺青はヴィーの口の周り、よく見ると舌まで張り巡らされている。「パルスを刺青伝いに運動神経に送る。意識はマトリクスにあっても肉体に干渉し、こうして歩くことさえ出来る」ゆっくりとコギトの座る椅子に近づき「マトリクスは所詮マトリクス、仮想空間に過ぎない」椅子を蹴り倒す。どうと音を立て、コギトの体が床に投げ出される。テスカが小さな悲鳴を上げる。駆け寄ろうと前傾姿勢になるゼゥ、ヴィーに睨みつけられ足が出ない。ホログラフィの盤、駒は動いている。床に頬を押し付け虚ろな眼、コギトの意識はマトリクスに潜ったまま、リバーシの演算に取り憑かれている。頭上で嘲笑う声、作業服の襟を掴む腕、電子回路のような刺青、電流の火花、持ち上げられ宙に浮くコギト、無声映画のヒロインのように叫ぶテスカ、コギトの周りに浮かぶホログラフィの盤、駒がクルクルと回転し、物凄い勢いで白の面積が増えていく、コギトの白が。虚空に浮かぶ文字は、00:09。
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