mixiユーザー(id:5348548)

2017年05月24日21:11

398 view

映画「日本の熱い日々・謀殺 下山事件」

ケーブルテレビの「没後10年 熊井啓監督特集」から。
「謀殺 下山事件」は、わたしが大学に入学した年に封切りされたが、そのときは見ないまま。
翌々年のテレビ放映で見たのだが、たぶんカットがかなり入っていたように思う。
今回、全編まるまるはじめて見たことになる。


1949年、まだ占領下の日本。
7月5日、国鉄総裁の下山定則は出勤途中に失踪、翌6日に国鉄常磐線の北千住ー綾瀬間の線路で、轢断死体となって発見された。

これは自殺なのか? 他殺なのか?
昭和日報の新聞記者・矢代(仲代達矢)は事件を追う。
遺体を解剖した東大医学部は「死後轢断」を発表、矢代たち取材チームは他殺とみてその背景をさぐる。

矢代は、わずかな血痕にも反応するルミノール液を入手、現場の線路周辺にまいたところ、貨物列車が下山総裁を轢いた地点よりも上り方面に、点々とルミノール反応が浮かび上がった。
何者かが、下山の遺体を線路まで運んだのでは、と思わせる証拠だ。

遺体に付いていた油についても、下山総裁が監禁されていた場所で付着していたのではないかと推測、矢代は新聞記者ながら、警視庁の捜査員に交じって、捜査二課の大島(山本圭)とともに、米ぬか油を精製している工場を調べて回る。

しかし、慶応大学医学部は「生前轢断」を主張、警視庁からは「自殺説」も出始め、さらに下山事件の捜査チームは縮小、専従捜査員は異動となり、矢代もあやうく立川駅で誰かにホームから突き落とされ、間一髪で命拾いする。

当時は労働運動が激化、国鉄は大量解雇を予定していたため、
「下山総裁は反発する左翼勢力に殺された」というフレームアップで、運動を弾圧するのが狙いではないのか、と矢代は憶測。

下山事件に続いて、三鷹事件、松川事件と立て続けに不可解な事件が発生、松川事件では共産党員たちが逮捕された。
下山事件については迷宮入りのまま捜査も打ち切り、しかし矢代はひとり、この事件の闇を追い続けていた。
韓国人の李中漢(井川比佐志)が、「下山総裁殺害計画」を事前に知っていた、という情報を知り、彼が韓国に送還される前の、長崎の収容所まで矢代は出向く。
しかしおびえた李は「だれが計画の中心人物か、話せば命が危ないんだ」と、ついにその名前を口にしなかった。

世界はすでに東西冷戦に入っていた。
アメリカは日本を民主化から一転、反共の砦として方向を変え、ドッジ・ラインに基づく経済緊縮政策をすすめていく。そして国鉄の大量解雇が実施された。
翌年、朝鮮戦争が始まった。
矢代は韓国へ強制送還になった李がどうなったか気になったが、「送還のために乗せられたヘリから海に突き落とされた」という情報を耳にし、暗澹たる気持ちになる。

朝鮮戦争の特需で、日本は好景気となり、その後の経済成長につながっていく。
しかし矢代は下山事件の真相究明をあきらめていなかった。
窃盗で捕まった丸山(隆大介)が、「下山総裁の遺体を運んだ」とのネタをつかみ、執拗に丸山を追う。彼は何も知らないと口を割らない。

何年も丸山に接触していた矢代は、高額な報酬と引き換えに、真相を話してもらうことに成功する。
それは驚くべきものだった。
丸山はシベリアの捕虜収容所でいっしょだった、旧日本軍の特務機関出身の男から誘われ、「あるもの」を運ぶように頼まれた。
それは男の遺体で、同様の男たちと数人で土手を上り、遺体を常磐線の線路に置いたー。

その夏、1964年夏、下山事件は時効となった。
10月、矢代は新聞社のデスクで、記者たちと東京オリンピックの晴れやかな開会式をTVで見ていた。そこへ電話が入る。

駆け付けた国鉄のガード下には男の遺体が。
線路に転落して列車にはねられたという。
事故なのか、いや、それとも・・・
顔にかけられた布をめくると、そこにあったのは丸山の変わり果てた姿だった。


カラーが当たり前の時代に、あえてモノクロ映像で制作しているのが、作品をドラマチックで迫力あるものに見せることに成功している。
モノクロのくっきりした陰影が、まさに「下山事件の闇」をあぶりだすようで、さらに当時の実録フィルムがさしはさまれるため、それと違和感を覚えさせない流れになっている。

何より、真相に迫ろうと執念を燃やす、仲代達矢の表情が鬼気迫る。
「共犯」に手を染めた、隆大介の、怯えた顔も見ものだ。

実はわたし、中学生の頃から「下山事件」には興味があった。
個人的には「他殺」ではないかと思うが、いまだに真相が闇の中であり、背後にいるのがGHQなのか満州の人脈なのかはたまた・・? と真相に近づくものは消されてしまう、という不気味さが、不謹慎だが「怖いもの見たさ」のような興味を駆り立てる。

「社会派」と冠せられる熊井啓監督だが、こういう映画は、もう現代では作ることは難しいだろうな、と思わざるを得ない。
骨太で、ある種タブーに触れる題材に、映画会社、配給会社も資金は出せそうにないだろう。

改めて今見ると、いろんな感慨を覚える。
冒頭、デモの場面で流れる歌声は「インターナショナル」だ。
いまでも労組では歌われているのだろうか(わたしがかつて勤務していた会社にも労組はあったが、まあ御用組合に近い存在だったから、そんなシーンはなかったと思う)。
エンドロールの最後には協賛として国鉄労働組合と国鉄動力車労働組合の名前が出てくるが、国鉄もこれらの労組もいまは存在しない。

さて、映画の中で「フィクサー」として登場する、こわーい男を演じるのが大滝秀治。
この凄味は、カラー画面では出せなかったろう。
あの児玉誉士夫を思わせるような雰囲気だった。
そして、もうひとつ、意外な発見が。
まだ売れっ子になる前の役所広司が、矢代の後輩の記者役で出ているのだ。
九州弁が抜けない若手記者の設定だが、ひょっとして、セリフをしゃべるとき、なかなか訛りが直せないので、じゃ、そのままで行け、となったとか??

下山事件については、10年前にもmixi日記に書いています↓
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=528585244&owner_id=5348548

※画像・右側の、一番右の俳優が役所広司
(5月23日・チャンネルNECO)
6 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2017年05月>
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031