☆洋ちゃんの読観聴　No. 1181

☆洋ちゃんの読観聴　No. 1181　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

砂田麻美　「一瞬の雲の切れ間に」　　　　　　　　　　　　　　　　　

５編の短編が収まっており、それぞれ主人公が
異なるが、彼らはそれぞれ関係があり、したがって
ひとつの長編と見ることもできる。

一つ目は出版社の派遣社員の女性で、職場の
編集者と不倫している。この男の妻が交通事故を
起こし小学生を死なせてしまう。派遣社員の
女性はそれまで相手の男の家庭のことをあまり
考えてこなかったが、自分の将来を見つめなおし
ステップアップしていく。

二つ目は交通事故死した子どもの母親の話。
シングルマザーの彼女はパン屋から雑貨屋へと
転職するが、その雑貨屋の店主が心優しい人間で、
前を向いて生きていこうとする。

三つ目は一作目の女性の不倫の相手の男が
主人公だ。自分勝手に生きてきた男だが、
大学の後輩の葬式に出席し、そこでかつての
女友達に出会う。ほんのひとときの彼女との
会話を通じて彼は半生を見直す。

四つ目は交通事故を起こした編集者の妻の
話。罪悪感にさいなまれる彼女に対し、かつての
上司や友人が心配りをする。そして、あの事故
現場を正面から見つめなおす。

最後に五つ目があるのだが、これは紹介を
省く。僕個人の感想としては、この五作目は
話を無理につくっている感じがするので、不要だと
思う。

読後感はさわやかだ。ここには特別な能力を
持った人間は登場しない。そして一つひとつの
エピソードも誰にでもありそうなことばかりだ。
ほんの少しの他人への思いやりで人は元気に
なれる。

僕はこの作家のことは知らなかった。本作品は
確か２作目で、小説を書く前に映画監督として
デビューしているそうだ。

人と人とのデリケートな関係を描くのがうまい。
女性ならではの心理の動きは、女性作家なら
ではと思う。

話がうまくまとまりすぎるという感はあるの
だが、そこはフィクションなのでいいのではない
かな。