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2016年08月06日21:21

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トランボ ハリウッドに最も嫌われた男

 これは・・・、見事な「男気映画」!
 男が男にホレるたあ、このことですな。
 ダルトン・トランボ、フランク・キング、カーク・ダグラス、そしてオットー・プレミンジャー。
 アンタらカッコよすぎるわ。


 戦後間もなくして始まった東西冷戦による共産主義アレルギーが病的なまでに蔓延したあげくの、醜悪で愚かなムーヴメント。
 現代の魔女狩りとも称されるあの悪名高い「赤狩り」。そしてそれに真っ向から立ち向かった硬骨の映画人。この事実を臆することなく正面から描き切った重厚な社会派ドラマであります。

 ・・・いや、確かにそういう映画ではあるんですが、私はそれ以上に、「困っている者がいれば、その余裕がある者は躊躇なく手を差し伸べるのが当然」を実行した男たちの熱いドラマとして、この物語を堪能したのでありました。

 赤狩り推進者の汚い根回しで仕事を奪われ、あげく投獄までされた脚本家、ダルトン・トランボ。
 友人にも見限られ、引越し先では隣人達からは卑劣な嫌がらせを受ける彼を助けたのは誰であったか。

 フランク・キング。
 ゲージュツとは縁もゆかりもない、インテリジェンスのカケラもない銭ゲバ製作者。しかし彼には「腕さえよければ共産主義者だろうが何だろうが、そんなの関係ねえ」という、実にアッパレな信念があったのでした。ダメ脚本をリライトし、つまらない企画を当たる映画に変えていくトランボの手腕に惚れた彼は、とことんトランボを擁護します。
 「トランボを首にしないと俳優にストライキを起こさせる」と汚い脅迫をしかけてくる非米活動委員にバットで対抗し、「オレの答えはこれだ」とガラスを派手に叩き割って見せるシーンの痛快さ!
 ラスト、トランボがようやく陽の当たる場所に戻ったとき、そこにちゃんとキングがいるってのが実にいいですなあ。

 カーク・ダグラス。
 自身のプロダクションで製作する「スパルタカス」の脚本を自らトランボに依頼し、赤狩り派の連中の妨害を撥ね除けて初志貫徹したばかりか、それまでは変名でしか仕事のできなかったトランボの名をクレジットに乗せる決断をした、勇気ある男。
 彼自身、貧しいユダヤ移民の子として辛酸をなめてきた経験があるだけに、愚かで実りのないニセ愛国行為に一矢報いたかったのでしょうね。

 オットー・プレミンジャー。
 つるっぱげで、何だか怪しげなアクセントの英語を操るアクの強い人物で、「ローラ殺人事件」「或る殺人」など、ハリウッドのタブーに挑戦するような作品を手がけて来た映画監督。
 彼もまたトランボの手腕を信じ、ものすごーくつまらなかった「栄光への脱出」の第1稿をリライトするよう要請してきます。
 当然、プレミンジャーの耳にも様々な雑音が入ってきますが、そんなことを気にする彼ではありません。トランボのクリスマスと新年の休暇をフイにさせ、「栄光への脱出」の脚本を完成させるまでつきっきりで作業に付き合うのです。

 思想? 政治活動? そんなもん知るか。オレたちゃ信用できる仲間と仕事がしたい。それだけさ。
 おお、なんて気持ちのいい連中でしょう。


 その一方で本作は、当初はトランボとその仲間たちを助けるために奔走しながら途中で手の平を返し、非米活動委員会でトランボたちに不利な証言をした俳優、エドワード・G・ロビンソンにも温かな視線を投げ掛けています。
 変名で仕事ができる脚本家と違い、顔で商売しなければならない俳優の苦衷、苦悩を実にフェアに描いており、決して卑怯者扱いをしていません。
 また、赤狩りの熱烈な支持者であったジョン・ウェインですら、俳優仲間の悲運に一定の同情を寄せる思いやりを持った人物として捉え、単純な加害者には仕立て上げていませんでした。
 このあたりにも、作り手たちの冷静さ、賢さ、そして温かさが感じられます。一方的な糾弾は人としての良心に背く行為であり、何よりも赤狩りと同根のものでしかないということが、彼らの共通認識としてあったのでしょう。


 赤狩り、マッカーシズムという史実を仮に知らない人でも、この作品は受け入れることができると思います。この夏、できる限り多くの日本人に観てほしいです。
 今、この日本には、同じようなことが起こる要素が十分すぎるほど揃っていますからね。
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