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2016年06月29日08:28

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☆洋ちゃんの読観聴 No. 1144

☆洋ちゃんの読観聴 No. 1144                 

ドン・ウィンズロウ 「ザ・カルテル」                 

ウィンズロウの名作「犬の力」の続編。文庫本の上・
下巻合わせて1,200ページを超えるボリューム。

「犬の力」はアメリカとメキシコを舞台に、アメリカの
麻薬取締り局(DEA)の捜査官アート・ケラーと、
メキシコの麻薬王アダン・バレーラとの1975年から
2004年までの約30年間におよぶ戦いが描かれた。

本作品は続編なので、2004年から始まる。アダンは
服役しているが、脱獄に成功する。ケラーへの復讐も
あるが、その前に他の麻薬グループとの抗争に
打ち勝たねばならない。

メキシコの麻薬カルテルは、政治家や官僚、警察と
関係が深い。なのでカルテルの抗争と言っても、
カルテルの構成員同士の暴力に終わらない。
それに警察や軍隊など、もともと武器を合法的に
所持している人間も加わってくる。

そして悲惨なのは、その犠牲者たち。直接の
カルテルの人間にとどまらず、その家族、役人、
一般市民も殺害される。女性や子どもにも容赦がない。
殺人、殺人また殺人。

カルテルのリーダーたちは常に頭をめぐらす。
いま誰と手を握ったらよいのか、裏切りはないか。 
用意周到な準備をしても、罠がある。

暴力もエスカレートしてゆく。銃やナイフだけでない。
手榴弾も、ヘリを使っての空からの爆撃もある。
そう、これは戦争と言ってよい。

ほかにも読みどころはある。メディアのあり方だ。
ここでは地方紙の編集者や記者が、カルテルからの
脅しにあいながらも信念を貫く姿が描かれている。

米国政府の微妙なスタンスも興味深い。親米の
政権を維持させたい、そのためには麻薬撲滅では
なく、抗争を平定させる道を選び、比較的平和的な
カルテルに加担する。

そして本作品の魅力として書いておきたいことは、
捜査官ケラーと麻薬王バレーラの生き方の葛藤だ。
ケラーは地元の医師と恋に陥り一度は結婚を
考える。バレーラは愛人のほかに盟友の娘を
嫁に迎え、子どもを授かる。子どもの時代には
自分とは違う平和な世界をと望むのだ。

日本の戦国時代の武将らのドラマとどこか似ていて、
自らが天下を制圧すれば平和は訪れる、そのためには
他者を排除しなければならないし、他者との戦闘に
勝たなければならないというロジック。人間は変わらない
のかもしれない。

今年上半期が終わるが、本書は今年前半の翻訳
小説のベストと言える。


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