新春の今年のお楽しみは明治座「伍代夏子・藤あや子〜日本橋春秋/新春大江戸歌絵巻」。ゲストは年末に初めてNHK紅白歌合戦に出演した三山ひろし。ゲストは連日ではなく、同じく紅白初出演で注目をあびる山内惠介が交代する趣向のようだ。
三山のセリフで「一、二を競う美形」の伍代・藤との紹介(「どちらが一なの」と二人から突っ込み)。休憩入れて11時から3時まで。舞台劇と歌を満喫できる。三山も売り出しの「お岩木山」などを披露した。
藤は姿が恐らく業界一だろう。着物姿もドレス姿もいい。新春にうってつけ。伍代のいい点は表情だ。姿も表情もこれだけは個人の勝手な感情ものであって、それがいいという者もおれば、それが嫌だという者もいるが、それでいい。こうした個性的な芸の人気を売る商売ではあたりまえだからだ。
伍代の表情というのは、人前に出た時の芸人の作るべき表情はこうでなきゃというのをわきまえたところ、というのが筆者の感想だ。顔を人前におもいっきりさらす、近年の4Kだなんだというテレビなどでは、見せられるほうにもなって欲しいものだが、ややげびるが容赦ないアップをするときがある。そのようなことを気にしていては成り立ちえない世界なのは承知でも、年寄りはやはり気にする。
そういう点で、伍代、松たか子、すみれなどのくったくのなさそうな表情は見てて安堵感を感じるのではないだろうか。生きている限りくったくのない人などいない。男の場合いは表情にでやすい。苦虫をつぶしたような表情になる。それなのに人前ではそれを殺して自然なさりげない表情を続けるのは、見事な芸のうちといつも思う。
それにしても、三山ひろしは声がいい。ビタミンボイスなどと誰かがつけたようだが、彼の声はいい。ずいぶん前にテレビにちょい出をしたときから、注目していた。10年以上さまざまな曲を歌っている。声質から昭和歌謡というか、戦中戦後の歌謡曲のカバーも多く歌っていて、まだまだ新人扱いではあるが先が楽しみな歌手である。
さて、新春テレビ番組に坂本冬美デビュー28年の軌跡というコンサートを観た。坂本冬美も好きな歌手だ。タイトル通り、デビュー以来の坂本の成長をまとめた番組としてはすばらしいものであった。
「あばれ太鼓」「夜桜お七」などの代表曲もすばらしいのだが、圧巻は歌謡浪曲「岸壁の母〜母の叫び入り〜」であろう。本来高音で歌いとおす坂本の声に浪曲は合わないのだが、再起の恩師二葉百合子の魂の指導の成果がよくでていた。二葉のはもちろん坂本の「岸壁の母」は何回もみているが、今回の舞台でのできは大きな成長がよみとれた。
何よりも坂本の眉間のシワがほとんど消えていた。それは演者としてのこころの持ちようの変化からきている。
浪曲の(民謡にも言えるが)発生にはいつも感心する。プロの浪曲師の発生には人をうなずかせる。説得力がある。だがなまはんかにこれをやったら、たちまちのどと声をだめにする。歌手がのどと声をだめにするというのは自殺に等しい。それを坂本は切り抜け微妙な低い声をも利用できるようになっているのがわかる番組であった。
歌謡浪曲といえば演歌では島津亜矢をあげないわけにはいかない。島津亜矢の舞台は昨年の新春コンサートで楽しんだ。
浪曲をスタート点に独自の節回しをもつ中村美津子と並んで、島津亜矢は三波春夫の歌を受けつぐ存在だ。歌のうまさを天性的なカンと才能で得ている。感情過多とも思える歌いまわしは、聞き手の感情をダイレクトに揺さぶる。
フランク永井の歌唱や感情の入れ方とはまるで逆なのだが、歌うテーマがあってそれを直線的にオーディアンスに訴えるという点でのうまさは突出しているではないだろうか。
浪曲はテレビがなかった時代、国民的人気で多くの人の楽しみであった。これがテレビのビジュアル時代になると、長話ははやらなくなった。歌謡曲でも前奏や間奏を含んだ三番までの歌詞を歌う3分は長いといわれるようになった。浪曲は演者の舞台が画面に出ても退屈に感じられていった。
三波春夫や二葉百合子はそこで歌謡浪曲をあみだした。15分から20分程度の長さに浪曲調の語りと歌にまとめた。セリフ回しも歌も完璧に譜面が用意されたものだ。演者がそ演技にうとうな自信がなければ舞台を保持できない。
こうして切り開かれた歌謡浪曲もひとつの人気ジャンルを一時は占めたが、後継者が少なく細々と続いている状態だ。やはり実力がある演者でないと20分を魅せ続けるのが困難だ。そうした中で中村美津子や島津亜矢や坂本冬美は貴重な存在である。
何度も紹介しているが、フランク永井は1965年11月、歌手生活10周年のリサイタルで『慕情』を演じている。岩谷時子作詞、恩師吉田正で20分に及ぶ「歌謡長編組曲」。東京混声合唱団のコーラスをバックに情感豊かに、あざやかに情景を歌い上げて絶賛された。第20回芸術祭「大衆芸能奨励賞」を得ている。
「歌謡長編組曲」もハードルの高さからフランク永井自身もその後歌うことはなかったようだし、他の歌手もトライすることはほとんどなかったようだ。
ちなみに、この『慕情』はMEG-CDから復刻発売されている。吉田正作品集でもCD化されている。そして、これを通常の3分版とした「雪の慕情」が吉田正の作曲生活50周年記念として、ささきいさおが歌いなおしている。
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