mixiユーザー(id:44534045)

2015年09月17日08:18

129 view

蝸牛に恋をした「僕は蛞蝓」

 カタツムリに恋をした「僕はナメクジ」

 穢れきっていたハズのこの世界――たったの一雨がすべてを変えた。
 「……美しい」そう認めざるをえない。雨上がりの青空が、凄惨な蒼を僕に突き付ける。植物たちの緑、輝き――命を限界burstさせて輝度を増し、透明すぎる露――綺羅りと一度瞬いて、ゆうくりと溢れる。
 「認めざるをえないな……世界の美しさと、その有様を…………ただ……」そこに含まれてしまっている「僕」という存在、もはや世界の醜悪さ、を言い訳に出来なくなってしまった――では僕自身のこの穢れ、「一体どう言い逃ればいい……」凛とした世界美にまざまざ、歪んだ輪郭を現した、孤独。
 僕は、病んだ葉の裏に張り付き、青空に映らないようにじっと息を潜めていた。そんな絶望的朝――彼女を見つけた。

 濃淡をくっきりとさせたストライプ、幾筋?螺旋形状が答えを惑わせる。「完璧」などこの世界には、存在しないはずなのに、「見ろ!あの構造物は完ぺきではないか?」僕は驚きの余り、葉の裏から剥がれ落ちた。ジメった地面に跳ねる。体表に朽ちた葉や泥小石をまんだら張り付かせ、見上げる――青空にくっきりと、彼女が、いる――まるで螺旋の天体――なるほど――世界が美しい理由――認めざるを得ない。彼女があんな風に存在をしているこの世界――美しくないわけがない。

僕は惨めだ。

 この醜怪な身体を剥き出しにして、うねうねと生きている――惨めだ。僕のきた道、粘膜で穢れている――僕のいきた道。そして――僕のいきたい道、それすらも……

 「彼女に、謝辞を述べたい」僕を望み無き閉塞感情の行き詰まりに追い込んだ彼女という存在に、僕はお礼を言いたい。厭味なく純粋かつきっぱりと、彼女に「ありがとう」を言いたい。彼女のおかげで僕はハッキリと知ることができたのです。世界と――僕の――対立構造を……

 自然と体が、這い出していた。粘膜の足跡を枝に葉にテラテラと押しつけながら――彼女のいる高みに忍び寄る――きっとこの道は――空を終点としている。否、今となってはもう――僕にとってはもう――空と彼女は同義語だ。

 とりわけ濃い緑の葉、その葉脈の向こうに、彼女の気配がある。僕は身を捩り――思い出せ、太陽に近付きすぎたイカロスはどうなった?自問する。答えは死?だがきっとイカロスは、快活に嗤いながら堕天した、に違いない。
この醜い体の一体どこに、そんなものがあったのだろうか――勇気――なるほど、希望こそはなくても、一片の勇気はあったのだな、僕の中に――自嘲して、葉蔭から這い出る。


 螺旋のストライプが、目の当たりに現れた。彼女の後ろ姿、嗚呼嗚呼嗚呼――僕はこと切れてしまいそう――なんと言うかもう――全身が精液の塊になって滴りそうな……勢い。
彼女は食事をしている?よくは見えないが、ぐちゃくちゃと咀嚼する音が聞こえる。僕にはその音が――聖歌の様に聞え……

 ――ゆっくりとゆっくり、彼女に這い寄る。3秒前の妄想が、現実味を帯びる。僕は――きっと――「射出された精子」、ひたすらに彼女の中に――入りたいと、駄々をこねるDNAの二重らせん。

 勇気とはいえど所詮は蛮勇なりきや?彼女の螺旋に触れる――彼女は食事を止めない。多分僕という存在に、気付いてすらない。僕の――当然にして、この僕の、殺意にまで達した恋心にも、だ。冷たい殻をじっくりと、味わう。織りなされた溝に、ぴったり体を押し付け――感じる。嗚呼――嗚呼――

 嗚呼――

 僕の触れた箇所、粘膜で穢れている。完璧だった螺旋美が、僕の穢れにより毀損してしまった。fullMaxの背徳感、全身が怒張する――もう止まらない。彼女の殻に身をこすり付け、粘膜で塗れさす。天体のように輝いていたのに……うぅ……粘膜に覆われた天体……なんと、なんと無様な……しかしそれでいてなお、まだ美に縋りつき、取り繕おうとしているフォルム。この瞬間に初めて――創世記より始めて、「愛おしい」という感情が誕生した。

 必至は必死、必ずや死に至らしむ激しさを、それを以って僕は、彼女を穢し続けた。粘膜は乾く間もほどほどに、新しい粘膜で上書きされ、何層にも何層にも塗り重ねられ――乾いた粘膜がセロファンのように、プリズムでもって虹を偽造して遊んでいる。嗚呼――黙示録の光景のようだ。破滅することで、世界の美は完結するのd――いや、まだ結論には早い。疑念が浮かぶ――

 「僕は結局、ただの粘膜?」彼女の殻に粘膜を残すたび、摩耗していく感覚、問題を提起すると同時、答えを示唆している。「ではすべてを摩耗させれば、僕という存在は喪失する?」なれば僕は――どうして、『この世界』に存在してしまっているのだ?追随する疑念の連鎖、いや連環、ループ・ザ・ワールド。出口は――ないらしい――すべてをdeleteするは――絶え間ない快楽、刹那に限定されるべき悦楽、それをこんなにも持続させて――摂理の脆弱性を突く悪業。その果て、確実に身体の質量以上の粘膜を流した果てに、遂に見つけた――世界の瑕、求めていた言い訳。彼女の螺旋に、一筋の傷。

「彼女は……完璧では……なかった」

 彼女の殻、螺旋の重なり、その渦にほんのわずかな隙間、いや亀裂がある。殻に身をこすり付け続けているうちに感じた違和感――冷たく後ろめたくすべすべとしていた螺旋構造物の完璧、一点の亀裂、その上を往復しているうちに、この身を襲ったかつてないsensation――

「ふぅ………なんだ?今の感触は?」

 激痛にも似た快ちよさ、硬質な彼女の殻の向こうにある――彼女自身の身。僕はうっかりと、そこに触れてしまったらしい。

 びくうん

 と、彼女、身を震わせ震わせた。咀嚼音が止む。彼女は今……僕を感じたのだな?もう一度そこに触れる――びくうん。やはりそうだ。全身の粘膜を一点に皺寄せ、粘液をそこに集約させて、彼女の亀裂にポトリ滴らせる。僕のトロトロトが、彼女の亀裂にゆっくり、透明な糸をねっとりと細らせながら落ち込んでいく。彼女、大きく揺れた。容赦なく垂らす、亀裂から溢れる、僕ン汁。
 亀裂に身を押し付ける。彼女、二度三度、震える。確信に変わる。僕はうっかりと、邪悪な笑みを浮かべてしまった――支配できるかもしれない。

 亀裂にじっとりと力強く僕の体の一番敏感な部分を押し付ける。彼女の身、とめどなく暖かい、そして驚くことに、彼女の体もまた、僕と同じく粘膜で覆われている。僕の体温では届かない高熱な粘液が、そっから溢れてくる。
 力を弱める。彼女の身が弛緩する――油断をするんじゃない。君はもはや神聖な建造物なんかではないのだ。それを――自覚させなければ――
 触角をおもむろ、亀裂にねじ込む。彼女、おおいに乱れた――無理もない。こんなこと初めてだろう?螺旋構造がきしきし音をたて、グラングラン揺れた――もっともっと奥に来て欲しいんだね?触角を根元まで差し入れる。そうして殻の内側に沿わせるように動かす。彼女の身と殻の隙間、そこに触角をねじねじして、無理矢理に押し広げるよう力を加える。熱い熱い粘液が、湧水のように染み出して、僕の全身を濡らせる。
 僕は思った――君と共有できるかもしれない――世界の美しさへの焦がれと、そしてそれを賛美する我が身の――資格の無さに対する絶望を。

「一緒に……穢れよう」

 ――本当は……君を穢したかったんじゃなく、僕は僕は……君と……君と……一緒に世界を…………

 僕は全身に続けて全霊を打鍵して、いや、「全身」を「前進」に誤変換させて彼女の中に這入っていく――触角の根元どころではなく、ゆっくりと全身を、彼女の亀裂に押し込んでいくのだ。彼女の螺旋には終わりがないらしい?

「彼女の螺旋は無限?」

 氷のよに冷たい螺旋殻と、マグマのよに熱い熱い粘膜肌の隙間、僕はそこに無理矢理に全身をねじこんだ。すっかりと全身を彼女の殻ん中に――押し込んでしまったのです。

 3億年前の追憶――「僕は射出された精子そのもの」。彼女の中に放たれて、初めて意義を全うできる存在。彼女こそが世界……

 溶けていく

   とろけて

  溶けていく

    彼女の中に――
  溶け  ほどけて

僕はしまいに

「僕」という殻を喪失させて

     世界の一部に――





「世界の一部に、やっとなることができた」











2 6

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する