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2015年05月30日12:47

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TBS-BS「日本名曲アルバム〜吉田正ヒット曲特集」で島田歌穂が「有楽町で逢いましょう」を唄う

 1998(H10)6月にフランク永井の恩師吉田正が永眠されてからずいぶん経過したが、吉田正の作った曲は衰えを知らない。
 TBS‐BSが吉田正ヒット曲集の番組を流すということでこの5月見てみた。
 「日本名曲アルバム〜吉田正ヒット曲特集」という番組名で、吉田正が残したヒット曲を12曲流されたのだが、全曲女性コーラス用にアレンジされたもの。いくつかは島田歌穂がメインを唄うというものであった。コーラスは、Chor Stella。
 放送されたのは、下記のとおり。

  いつでも夢を/恋のメキシカン・ロック/アイビー東京/誰よりも君を愛す/
  有楽町で逢いましょう/あの娘と僕スイム・スイム・スイム/子連れ狼/
  明日は咲こう花咲こう/美しい十代/寒い朝/再会/初恋

 フランク永井の恩師吉田正はいうまでもなくビクター専属作曲家で、昭和歌謡黄金時代のキーマンだ。芸術選奨文部大臣賞、紫綬褒章を受章、勲三等旭日中綬章を受章、日本放送協会放送文化賞受賞、叙・従四位、そして作曲家としては3人目となる国民栄誉賞を受賞。日本音楽著作権協会会長、日本作曲家協会会長を歴任した。
 吉田正は生涯で2400曲とか作曲されているといわれるが、誰もが知るというのは、やはりフランク永井が活躍していた時期と重なる。
 だが、吉田正が1998年に亡くなってから相当経った現在の時点で代表的な曲を選ぶと上記のようなことになるのだろう。シベリア抑留から帰国し、劇的な「異国の丘」のエピソードを経てビクター専属の作曲家となった。初期に親友としてともに歩んだ鶴田浩二の「街のサンドイッチマン」「赤と黒のブルース」などは、この種の番組での選曲ではどうしても後ろにさがざるをえない。
 曽根史郎「僕の東京地図」、三浦洸一「落葉しぐれ」「東京の人」、山田真二「哀愁の街に霧が降る」、和田弘とマヒナスターズ「好きだった」、久保浩「霧の中の少女」、田辺保雄「二人の星をさがそうよ」と吉田正が書き育てた吉田学校の歌手がいるのだが、これらも後ろに隠れる。
 やはり当時若さを前面にだしてつくってヒットしたのが印象深く無難な選曲なのかもしれない。その代表が橋幸夫であり、三田明であり、吉永小百合だ。確かに彼らが歌った曲は青春を同時代できらびやかに飾った。注目の若きスターであり、活気あふれる若者の代表が吉田メロディーを歌ったのだ。彼らに吉田は思いを託したはずだ。
 それに欠かせなかったのはやはり、吉田正がもっとも心血を注いでそだてたフランク永井であり、代表曲の「有楽町で逢いましょう」だ。そしてフランク永井と共に都会の熟女を象徴した松尾和子だ。彼女の代表曲でもある「誰よりも君を愛す」と、落ち込んだときに再起を期した曲でもあり、彼女の長男の不幸からの再起を願う気持ちが重なる「再会」だ。「再会」は松尾が慰問で訪れる刑務所の囚人から異様な人気で歌唱をもとめられるようなこともあり、ここばかりでなく予期せぬ底辺からの支持を得た曲だ。
 フランク永井や松尾和子の歌のターゲットは大人の都会の憩い?の場としてのちょっと上品風にみえる酒場に来る人々。クラブ、キャバレー、ナイトクラブでは客は連れとの話に夢中で、歌をじっくり聞いているわけではない。だが、日本のムード歌謡は生まれ、育ち、完成をみたといえる。最初はBGMであり、絶対に客の話をじゃましない。嫌な気分にさせない。それでいてムードを盛り上げる。無意識に働きかける。だが、人によってはあれっ、いい感じの歌だな、と気が少し動く。
 やがて、注意して聴いてみようとする。すると何気なく歌っているように感じていたものが、決して手抜きやおろそかがないことに気づく。歌詞のひとことも、メロディーの一節も、歌手の歌い方もそれらが計算しつくされて、全力で作り上げられたものがムード歌謡であるのを知る。これが現在でもムード歌謡を同時代で体験した人達に人気を得ているベースにある。フランク永井や松尾和子などは実にそれがわかった巧みなエンターテナーであった。
 吉田正のヒット曲にはどの曲にもさまざまなエピソードを持つが、「寒い朝」も吉田作品の頂点を象徴するものかもしれない。吉田が戦中兵役にとられ、満州からロシアの捕虜となり、語りつくせないはずのさまざまな苦難を経験しながらも、この中身をいっさい公言することがなかった。その思いをすべて吉田は歌に注入した。誰が作った歌かはさきざき忘れる。メロディーだけが残る。そのような曲のなかに、吉田の思いは込められ、残されたのだ。その象徴が「寒い朝」だ。
 吉田正の生涯の遺産はすべて曲に練り込まれている。その魂は「戦争の禍根を断ち切る」ということではなかったのか。無益のかたまりである戦争を、仕掛けたものの邪悪な気持ちにけっしてそそのかされずに、かれらと決して同じレベルでの対応や感情をもたないこと。普通の庶民の素直な気持ちで、すべての怒りと怨念を昇華して音楽に、永遠に歌い継がれるメロディーのなかに忍ばせることをなしとげたのではなかろうか。
 誰にでもできることではないのだが、大作曲家吉田正が生涯貫いた寡黙で行動に込めるこの姿勢を感じるのだ。
 コーラス・ステラと島田歌穂が歌うという吉田正のこうした番組であっても、編曲でより洗練され、吉田の思いをメロディーで未来へ渡すようなこうした試みは、大変意義があったと思った。
 吉田正の生誕地茨城県日立では、吉田正音楽記念館において8月末まで「作曲家吉田正&作詞家佐伯孝夫展」が開催中である。

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