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2015年02月14日19:53

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英霊たちの応援歌

 今日、渋谷シネマヴェーラで岡本喜八監督作品「英霊たちの応援歌 最後の早慶戦」を観てきました。
 太平洋戦争末期、戦場に駆り出されていった多くの学生達の姿を追った群像劇です。

 正直、一連の岡本作品の中では出来のいい方ではありません。ロケのシーンなどを見ていると明らかに戦後に建てられた家やビルが映っていて、なんとも寒々とした気分になります。製作条件の悪さがあからさまに「絵」に出ちゃってるんですね。

 でも、私は本作が嫌いではありません。
 戦争による痛ましい犠牲を描きながら、悲壮さやみじめさが微塵もないからです。観客を泣かせるために「美しい犠牲」を謳い上げるようなあざとさ、えげつなさもありません。このあたりが、あの百田某のでっち上げた胡散臭い特攻物語などとは違うところですね。

 「英霊たちの応援歌」に登場する青年たちは、実に屈託がなく、さばさばとしています。戦局逼迫の報を聞いても「思えば短い人生だったな。二十三で死ぬのかネ」と呑気にため息をつくだけですし、海軍のエラいさんの予備士官志願募集の演説を聞いても「オレは海軍のワインと、ブランデーと、Sプレイに期待してるのさ」とうそぶきさえします(ちなみにSプレイとは「芸者遊び」のこと)。
 こういうあたりに当時の若者のリアルな呼吸が感じられます。

 タイトルに「最後の早慶戦」とありますが、本作は野球映画ではありません。肝心の早慶戦は本編の途中でちょこっと結果だけが挿まれ、あとは徴兵猶予撤廃による学徒動員で招集された学生達のその後が、淡々と描かれます。
 特に印象的なのが、山田隆夫演じる正木少尉。運動部出身者ばかりの中で、彼だけが落語研究会出身なんですね。海兵団では小柄なせいで「ボール」とあだ名をつけられ(そのためか、しょっちゅう軍人精神注入棒で尻を殴られる)、少尉任官後は「時ソバ」と呼ばれてしまうのが実に愉快。
 そんな彼が子供みたいな部下の前で「饅頭こわい」を演じた翌日、特攻隊員として出撃していくのが何とも哀しかったです。それも「お後がよろしいようで」と言い残して。

 そう、本作はこうした「おかしさ」と「哀しさ」が見事にマッチしているのです。だからこそ、死地に駆り立てられていく青年達の「押し隠した怒り」や「諦念」がひしひしと伝わってくるのですね。

 ラスト、たった一人生き残った早稲田大学野球部のマネージャー、相田(勝野洋)が、防空壕の中に隠してあった真っ白な新品のボールを掘り出すシーンの深い虚無感は、永く記憶に残ることでしょう。
 佐藤勝作曲のボレロ調のテーマ曲も忘れられません。
 
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