■人生と文学と政治 (8)
― 夏の朝に ―
●日付の替わる時刻に、相前後して日記を書くと、
「きょう」ということばが、
「きのう」であったり、
「あす」ということばが、
「きょう」であったりする。
●それで、正確に書けば、
6月21日、朝6時15分、
太陽は、まだ高くまで昇らず、
高取山のテレビ塔のやや上あたりで
ひかり輝いている。
朝の風は、高原の気流のようだ。
朝の光は、海のきらめきを思い出させる。
●PHP新書 396
著者:寺島実郎 / 出版社:PHP研究所
判型:新書 / 発行年月:2006年4月
われら戦後世代の「坂の上の雲」
― ある団塊人の思考の軌跡 ―
いま、この「本」を読んでいる。
●「はじめに」も、「あとがき」もない、この「本」は
次のような章立てになっている。
第1章 1971年5月 全共闘運動の余燼くすぶるキャンパスにて
― 政治的想像力から政治的構想力へ ―
第2章 1980年5月 社会参加して十年の団塊の世代として
― われら戦後世代の「坂の上の雲」 ―
第3章 1991年3月 ニューヨークに駐在して四年目
― 米国との位置関係 ―
第4章 1999年9月 十年の米国駐在を経て東京に立ち
― 戦後世代の責任と使命 ―
終章 2006年3月 2007年問題を前にして
― 団塊の世代の正念場 ―
●紀伊國屋書店のBookWebでは、次のように紹介している。
戦後まもない時代に生まれ、国際ビジネスの第一線で
活躍してきた著者は、自らが属する団塊の世代についても
思索を続けてきた。
本書は、その思考の軌跡を十年の節目ごとに振り返った
ものである。
団塊とは何か?
われわれは、経済的な豊かさを超えた価値を
いかに創造しうるのか?
2007年問題ともいわれる高齢社会の一大転機を前に、
日本の未来の座標軸を探り、成熟型の時代状況のなか、
悪しき私生活主義や偏狭なナショナリズムに陥ることなく、
社会へ主体的に参画する意思を問いかける。
戦後日本の歩みを振り返り、団塊の世代としての自らの
責任と使命を踏まえることから、21世紀の日本の座標軸を
再定義する。
●うまいものである。
「はしがき」や「あとがき」がなくても、これを読めば、
本書の「成り立ち」も「目的」もわかる。
また、「ウィキペディア」の「寺島実郎」を読めば、氏が
保守リベラル、ハト派で、護憲派であることもわかる。
『新経済主義宣言』(新潮社1994年)で、その年 第15回石橋湛山賞
を受賞して以来、氏は「21世紀の旗手」とも呼べるリベラルな
論客として、シンクタンク活動をはじめとして、日曜日の朝、
関口宏「サンデーモーニング」のコメンテイターとして
お茶の間でもお馴染みになっている。
●氏には、「本書」が書かれる前に、
「団塊の世代 わが責任と使命―戦後なるものの再建」
という、著作がある。
1999年11月、同じPHP研究所から刊行されている。
----------------
社会のリーダーとして「私生活主義」を捨て、
日本にいかに貢献すべきか。
NPO社会の創造、アメリカ精神からの自立など、
力強い行き方を説く。
いま、「団塊の世代」は50歳を超え、社会の中核を
なすようになった。
本書では、団塊の世代がこれから何を考え、身近なレベルから
どう行動すべきかを、ビジネスマンであり、自ら団塊の世代で
ある著者が構想する。
著者はいう。
「現在の若者の頽廃は、我々の世代が作ったといえる。
『軟弱な私生活主義』に浸ってきた我々は、子供たちに
社会との正しい接し方を教えて来なかった。
そのツケが現れているのだ」
「団塊の世代はミーイズムを持て、今こそ社会に役立つことを
真剣に考えねばならない。方法としては『NPO』という
新たな公共組織作りに積極的に加担し、そこから社会に
モノ申すのがよい」
「アメリカへのあこがれの中で育ってきた我々だが、激烈な
国際競争を勝ち抜くには、アメリカから卒業し、自らの力で
世界の競合に立ち向かうべきだ。この視点で日米安保を考えよう」
サラリーマンとしての、等身大の視線で「第二の人生」の
気概と構想力を問う力作評論。
以上は、その「本」の謳い文句である。
●その自覚やよしとする。
・現在の若者の頽廃は、われわれの世代が作ったといえる。
・われわれは「軟弱な私生活主義」に浸ってきた。
・われわれは、子供たちに「社会との正しい接し方」を
教えて来なかった。
大方は、そうなのであろう。また、向かう方向も間違っては
いないと思う。
しかし、こうなることを警告し、こうなることに抵抗した人は
いなかったのか。
また、現に、いまも地道に活動を続け、これとたたかっている人が
いるのではないか。
そして、過去から現在へ、そのような水脈は、日常あまり
日も当たらず、ただ黙々と、自己の責任と運命を自覚した
人々によって掘り進められ、それらの人は、そうすることで、
日々くらし、生きているのではないか。
それは、むかし、
労働者の権利を、労働者自身が、たたかい、勝ちとり、
守り、はぐくんできたのと同じことではないか。
また、このことは、「団塊の世代」と「そのジュニアの時代」だけに
起きたことでなく、いつの世もそうではなかったのか。
そう把握することで、見えてくる「世界」があるのではないか。
そこには、「日の当たらぬ側」につくという「意志」が介在し、
また、そうする人たちには、そうすることを自分の「運命」のように
感じる、感受性や諦観や世界観が介在するではなかろうか。
そのことを抜きにし、「今こそ、社会のために」「今こそ、
NPOを」といっても、それでは弱いのではなかろうか。
●運動の「主体」と「精神」をどこに求めるのか。
これでは、シンクタンクの「良識あるレポート」ではあっても、
世の中を動かす「檄(げき)」には程遠かろう。
------------------
<付録>
●前著「団塊の世代 わが責任と使命」の構成
◆「団塊の世代 わが責任と使命―戦後なるものの再建」
第1部 戦後世代の責任と使命
第1章 崩壊する団塊ジュニア
第2章 第一の責任としての「新たなる公共」の創造
第3章 第二の責任としての対米関係の再設計
第4章 第三の責任としての「守るべき戦後」の明確化
第2部 思索のマイルストーンを振り返って
― 1970年からの30年間への逆流 ―
第1章 政治的想像力から政治的構想力へ
第2章 われら戦後世代の「坂の上の雲」
第3章 戦後世代としての米国との位置関係
(注)
「前著」と「本書」の目次を並べ見るとわかるが、
「本書」は、「前著」の第二部に、新たに第4章と終章の
二つの章を書き加えて成った「本」である。
------------------
●著作一覧
01. われら戦後世代の「坂の上の雲」
− ある団塊人の思考の軌跡 −
寺島実郎/PHP研究所/2006年04月
02. 脳力(のうりき)のレッスン
− 正気の時代のために −
寺島実郎/岩波書店/2004年12月
03. 大中華圏
− その実像と虚像 −
渡辺利夫・寺島実郎/岩波書店/2004年10月
04. ブッシュへの宣戦布告
− アメリカ単独覇権主義の危険な過ち −
ジョージ=ソロス・寺島実郎/ダイヤモンド社/2004年05月
05. 脅威のアメリカ希望のアメリカ
− この国とどう向きあうか −
寺島実郎/岩波書店/2003年11月
06. イラク戦争 − 検証と展望 −
寺島実郎・小杉泰/岩波書店/2003年07月
07. 歴史を深く吸い込み、未来を想う
− 1900年への旅
アメリカの世紀、アジアの自尊 −
寺島実郎/新潮社/2002年11月
08. 時代の深層底流を読む
− 寺島実郎の発言 −
寺島実郎/東洋経済新報社/2002年01月
09.「正義の経済学」ふたたび
− 日本再生の基軸 −
寺島実郎/日本経済新聞社/2001年04月
10.IT革命の光と影
寺島実郎/読売新聞社/2001年01月
11.1900年への旅
− あるいは、道に迷わば年輪を見よ −
寺島実郎/新潮社/2000年02月
12. 団塊の世代わが責任と使命
− 戦後なるものの再建 −
寺島実郎/PHP研究所/1999年11月
13. 国家の論理と企業の論理
− 時代認識と未来構想を求めて −
寺島実郎/中央公論新社/1998年09月
14.ふたつの「FORTUNE」
− 1936年の日米関係に何を学ぶか −
寺島実郎/ダイヤモンド社/1993年03月
15. 地球儀を手に考えるアメリカ
− 21世紀・日米関係への構想 −
寺島実郎/東洋経済新報社/1991年03月
■案内
・
日記/「Home」案内
■参照
・
人生と文学と政治(1)
・
人生と文学と政治(2)
・
人生と文学と政治(3)
・
人生と文学と政治(4)
・
人生と文学と政治(5)
・
人生と文学と政治(6)
・
人生と文学と政治(7)
・
人生と文学と政治(8)
・
人生と文学と政治(9)
・
人生と文学と政治(10)
・
人生と文学と政治(11)
■参考
・
「人生と文学と政治」資料
ログインしてコメントを確認・投稿する