鶴田浩二のNHKビッグショーについて前回にとりあげました。
鶴田は恩師吉田正の別格の生徒で、ただの門下生扱いはされていません。それはやはり映画俳優として特別な人気の地位にあったこともありますが、吉田正とまるで戦友のような関係であったことが理由かと思われます。
石原裕次郎もそうでしたが、鶴田はあくまで本職は俳優であって、歌手ではないと言っていました。だから周囲から押されて、人気があるのだからと歌の舞台を演じたと。だが、いったん舞台に上がったからには、下手でも精いっぱいに演じると。歌に対するこの姿勢がファンから親しまれたとも言えます。
酒を飲めない吉田正が「それじゃ大衆のほんとの気持ちは分からないよ」と鶴田が勧めたというエピソードは有名です。同様に酒を口にできなかったフランク永井も、恩師に伴って酒に親しむようになり、後には二人ともそうとうたしなんだと言われます。
鶴田は他のビクターの歌手に漏れず、1975年に「ベスト・コレクション75」をタイトルにしたLPを出します。2枚組のものです。自分のヒットした持ち歌とともに当時流行したの他の歌手のカバーとセットの作品です。
鶴田はこの中でいくつか、昭和歌謡にチャレンジしています。
その全曲リストは、次のようなものです。
真っ暗闇でございます/意地/日陰者/惚れた/白いかもめは何を見た
傷だらけの人生/赤と黒のブルース/街のサンドウィッチマン
ハワイの夜/弥太郎笠/同期の桜/好きだった/場末のペット吹き
夜霧の第二国道/俺は淋しいんだ/夜霧の空の執着港(エアーターミナル)
上海の街角で/夜霧のブルース/君恋し/無情の夢/湯島の白梅/戦友
ダンチョネ節/ラバウル小唄
その中に特筆すべきは、フランク永井の歌ったヒット曲を4曲カバーしていることです。
「場末のペット吹き/夜霧の第二国道/俺は淋しいんだ/君恋し」がフランク永井の曲です。
「場末のペット吹き」については、フランク永井の最初のCD-BOX全集の解説の中で、この曲は吉田正が鶴田浩二が唄うのを念頭に書いたものだと、当時のいきさつを語っています。後で鶴田がそれを聴いて、そうとう残念がったそうです。
それほど、鶴田向けの印象の強い曲ですが、だが、フランク永井がジャズから流行歌への転向を成功させた曲として、今では定着しています。並べて聴けばわかりますが、フランク永井は彼独特のセリフ回しのように、曲に思いを乗せて歌っています。
「君恋し」ですが、これはフランク永井にジャズ風編曲で提供した編曲家寺岡真三が、別バージョンの編曲をしているのが楽しめます。シロフォンかマリンバかよくわかりませんが、その音が弾む明るさを特徴づけています。
このアルバムのフランク永井のカバー曲4曲はどれも寺岡の編曲です。いずれも編曲の名人らしい、オリジナルに手を加えたバージョンです。「俺は淋しいんだ」は、渡久地政信が作編曲をしていますが、寺岡は渡久地のオリジナルに敬意を払ってか、崩さずにまとめています。
「夜霧の第二国道」は原曲の時のテーマの暗さを、大胆に払しょくして明るくしています。低音で暗く地獄の入り口にいざなうようなフランク永井の声にたいして、鶴田の声質は比較的高く、丁度よくそれに合わせた感じです。
このLPで鶴田浩二の歌手としての魅力が全開しています。2枚のLPで24曲を収録しているのですが、まあ、いずれも彼の印象に一生つきまとった「戦争・任侠」というのが、ここでも溢れているのですが、異色の曲が一曲あります。
1973年にシングルを発売している「白いかもめは何を見た」です。千家和也作詞/吉田正作曲/寺岡真三編曲の作品。
当時はカバーがブームだったこともありますが、フランク永井のほうの「ベスト・セレクション75」でも、1枚は全部カバーです。乗りに乗った時期でもあり、珠玉といってもいい作品です。ここでは、下記のような歌唱が楽しめます。「ひとり酒場で」は特に大好きな一曲です。
二人の世界/東京ブルース/夜霧よ今夜も有難う/昭和ブルース
恋あざみ/女の意地/別れの朝/くちなしの花/別れても
暗い港のブルース/ひとり酒場で/今日でお別れ
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