老境深まるムサは孫の12歳ハリメとともにトルコの大地を旅している。ふたりが運ぶ棺のなかにはムサの妻つまりハリメの祖母の亡骸。祖国シリアの内戦で両親を失いもう戻りたくないハリメ、どうしても妻を故郷に還したいムサ、ふたりの思いは複雑にからむ…。監督はトルコのベキル・ビュルビュル。トルコ=ベルギー合作。
余分な演出やセリフのやりとりもなく、ただただふたりが荒涼な大地を歩む前半はやや単調、正直ときどきウトウトしてしまった。ただしこれは完全にこちらの怠慢、音楽がいっさい流れない静寂のなかに聞こえる、風の音や遠くで聞こえる獣の遠吠えなど、いわゆる大地の音を本来ならじっくりと味わうべき部分に違いない。
おそらく観る側のほとんどはハリメに感情移入するはず。彼女の目を通してムサの道行きとトルコ人社会にふれることになるのだけど、意に反して彼女はなかなか感情を露わにしてくれない。そのぶん物語が後半に進み、棺を運んで国境を越える行為が周囲に知れるあたりから、少しずつその覆いははがれラストシーンにつながっていく。
色彩感覚に乏しく荒れ果てただけのトルコの大地を、まるで風景画のように切り取ったカメラワークに加えて、観る側の想像力をやたらと喚起するシンプルな演出。トルコ人の思考回路に思わず苦笑しながらも、あとからじわじわと効いてくる味わい深い思い。これまでにはあまり類を見ないタイプのロードムービーでした。
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